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2020年2月 4日 (火)

東京neoミニマリスト

「大きいことはいいことだ」と言われていた時代があった。森永製菓が発売したエールチョコレートのCMソングの歌詞の一節である。今でも、森永製菓のMorinaga Digital Museum に次のような内容で掲載されている。

【エールチョコレート】

大きいことはいいことだ〜時代を映したヒットCM〜

昭和39年(1964)10月にアジアで初めて開催された東京オリンピックは、昭和40年代の日本の高度経済成長を世界中に知らしめるには絶好の幕開けとなる出来事だった。国民所得の急激な上昇による国民生活の変化は、西洋菓子市場では華やかなチョコレート合戦となって現れ、大手メーカーがヒット商品を競った。

森永は昭和39年1月、ハイクラウンチョコレートを発売し、業界にいち早く「質の時代」を開いたが、昭和40年代に入り、カカオ豆の輸入価格が下がってきたタイミングをとらえ、昭和42年の目玉商品として大型の板チョコ「エールチョコレート」の発売を決めた。

広告企画会議では、商品コンセプトである「従来の板チョコより一まわりほど大きくて値段は50円のお徳用」を、どのようにインパクトのある広告に展開するかが検討された。さまざまな議論の末、「今までの日本は、小さな幸せ、慎ましやかな幸せが美徳とされてきた。これまでにない速さで経済大国の道を歩みつつあるこれからは、もっとのびのびと胸を張って、大きいことはいいことだと主張しよう」という方向が決まった。そうして誕生したコマーシャルが、当時、型破りでひょうきんな指揮者として人気を博しつつあった山本直純を起用した「大きいことはいいことだ」のテレビCMだった。

経済の上昇気流に乗った日本を象徴するように、気球の上から1300人もの大群衆を指揮する山本センセイ…。ヒットするCMの裏には、キャラクターの魅力とともに、時代を的確にとらえた視点とメッセージがある。

以上、https://www.morinaga.co.jp/museum/

 

時代は変わり令和となった今、CMこそないが「小さいことはいいことだ」という暮らし方に都心で生活する若者からの注目を集めており、既に各種メディアで取り上げられている。

新聞記事の見出しは、「わずか3畳『極狭物件』無駄ない生活、若者に人気」、「広さ9平米の快適アパート スマホ生活これで十分」など、3畳一間のアパートで快適な暮らしをする若者に関する記事として紹介されていた。このような暮らし方が注目され始めたという事は、狭小物件に目をつけ供給し始めた企業があるという事に他ならない。ネットで調べてみると、狭小アパートを専門にした不動産企業や、狭小物件を新たに開発し、投資家向け物件として供給する企業も存在した。ある企業は、英国BBCのニュースで「The arm’s-length flats of Tokyo」として紹介されていた。海外メディアのニュースソースにもなる程、目新しい暮らし方だ。

不動産投資の観点から捉えると、都心の狭小地活用が最大のメリットだ。狭小地でアパートを建てた場合、部屋数が十分取れないため、不動産投資としては十分な利回りが期待できない。従って、アパート利用には不向きである。しかし、狭小アパートにするのであれば、話は別だ。通常二階建てで、20平米の1DKを4部屋しか取れないところ、3畳の1ルームであれば8部屋取れる可能性がある。そうすることで、全室入居時の収入額が上がるとともに、利回りも確保できるという事になる。あるネットの記事によると、入居率は99%を超えており、入居が決まるまでの時間も募集から2週間と記されており、通常の賃貸住宅と比べると魅力的な不動産投資物件である。

一方、狭小アパートでも生活が成り立つし、需要があると考えた企業はどこに目を付けたのか。それには、狭小アパートで生活が成り立つ理由を考えれば、ある程度理解することができる。

先ず、テクノロジーの進歩に支えられた新サービスの拡大が無関係ではない。端的に言えば、現代の暮らしには、これまで生活必需品と言われた三種の神器は必要なくなった。洗濯機はコインランドリー、車はカーシェア、その他デジタル家電(テレビ、DVDレコーダー、デジカメ等)は全てスマホで賄える。

また、都心にはコンビニエンスストアが数多ある上、そこにないモノはAmazonやメルカリを利用すれば全て揃う上、家まで届けてくれる。都心に暮らす若者にとっては、スペースを犠牲にしてでも、好立地に住むメリットを享受したいはずだと考え、そこに勝算を見出したのだ。

既に狭小アパートに住む入居者の声を拾ってみると「古くなったものは捨てればいい。クローゼットがなくても特に困らない。お風呂につかることもないのでシャワーブースで十分。狭いからエアコンをつければ、すぐに最適な温度になるし光熱費の無駄も省ける。食事は外食か、冷凍食品を買ってきてレンジで温めるだけなので、調理器具は一切いらない。テレビも洗濯機もいらない。」等々、狭小アパートに住んでみて特別困ったようなことはなく、むしろ新しい暮らし方を楽しんでいるように見える。新宿駅、恵比寿駅あたりであれば、20平米1ルームのマンションで12万円以上。これに対し、狭小アパートは6万円前後で見つかる。この金額差は大きいし、何よりも好立地に住めば交通アクセスが良く、移動に費やす時間も費用も減らす事ができる。毎月のランニングコストのメリットは大きい。

このような暮らし方をする若者を「東京neoミニマリスト」と名付けておく。いわゆるミニマリズムを体現する者ではない。あえて定義するなら「都心に住むことで得られるベネフィットを最大限享受するために、居住スペースを犠牲にし、ミニマリスト的生活様式になった生活者」という事になる。

「東京neoミニマリスト」は、不動産開発業者のイノベーションによって、創り出された新しいライフスタイルの1つだ。東京都の地価がこれから下落することは望めないのだとしたら、若者の財産は環境への変化対応力だ。居所・寝床が狭くても、一歩外に出れば世界で最も機能性に優れた街の中にいる自分がある。そう思えば、都心の好立地の狭小アパート程快適な暮らし方はないのかもしれない。

私たちは、何かを犠牲にすることで、新しいモノゴトを手に入れられるものだ。スペースばかりではない。自分の発想が狭小化していることに気づいたら、思い切って何かを捨ててみる事もいいかもしれないと考えさせられた。

 

DEN

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