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2019年10月

2019年10月25日 (金)

リユースカップにおける普及の壁

リユースカップをご存知だろうか?文字通り一回使用したカップを捨てずに洗い、何度も使用するカップのことである。“必要ないものはつくらない、もらわない、捨てない“といったリデュース(買い物時のエコバッグの活用など)の考え方と本質的に同じである。まだ社会的な認知度は低いが、利用し始めている企業もある。

導入している企業では、福利厚生の一環として設定している給茶器(ドリンクサーバー)に、使い捨て紙コップに変えてリユースカップを使用している。

実際の利用方法は、紙カップの時とさほど変わらない。唯一の違いは、使用済みカップをゴミ箱に捨てることが、専用回収ボックスに入れるくらいであり、利用者の社員にとって過度な負担を強いる様子はない。

次に、回収ボックスに集められたカップだが、先ず回収ボックスから建物の共有ゴミ置き場に一時的に保管される。そこに回収専門業者がリユースカップの集荷に訪れ、専用工場に持ち込まれる。専用工場内では、リユースカップの滅菌と洗浄を施された後、給茶器設置用にパッキングされ、再びオフィスに届けられていく。基本的にはこの繰り返しによってリユースを実現している。

一方、リユースカップの普及具合をみると、その例はまだまだごく僅かである。先行して導入した企業では、都内近郊4か所のオフィスで利用しているが、2012年の導入以降、他社への広がりはみせていない。企業から廃棄されるゴミの総量を減らし、“必要ないものはつくらない、もらわない、捨てない“といったリデュースの概念に沿った活動であり大企業にとって、SDGs理念にも合致しているのだが、普及を阻む問題が幾つかある。中でも大きな問題になっていると思われる点を3つにまとめてみた。

1)費用の問題

まずリユースカップは紙コップと比較すると価格が高い。リユースカップは、1日100個以上の使用で1個あたり9円~11円の金額で提供(洗浄・運搬費込み)されており、通常の紙コップと比較すると、5倍近い価格である。この価格差では、いくら環境保全に意識を向けている会社でも即導入とはなりにくい。先行して導入した企業が日本で使用するようになった経緯をみると、外資系企業であり、既に海外支社でリユースカップが使用されている実績があり、環境保全を全社的に取り組む姿勢を広く社会に公表している。例えコスト増になったとしても目的が明確なため導入できていると考えられる。いくら社会的意義があったとしても、日本企業においてこの価格差を経営層が納得するには、今暫く時間が必要だと思われる。

また、この問題の根底には、1997年に施行された容器包装リサイクル法が関係している。各メーカーの商品においてリユース品が容器包装として利用が進まない理由は、リユース品の回収、運搬、洗浄の費用をメーカーが負担する必要があるからである。一方で、97年に施行された法律で、資源を再生利用するためのリサイクル活動の費用は、資源を再利用する業者に引き継ぐまでの収集、分別、保管費用にリサイクル全体の7割が、それにあたると言われている。そしてその全額が自治体の税金で賄われている。3R(リデュース/リユース/リサイクル)という概念上、環境保全の最終手段であるとされているリサイクルを選択することが、企業側にとっては価格メリットがあるため、自然とそれを選択するのである。

2)回収の問題

次にリユースカップの専門業者が回収に来るまでのオペレーション面に課題がある。ワークフロアから共有のゴミ置き場に使用済みカップを移動する際、建物のゴミ置き場または別のスペースに一旦保管する必要があり、その場所を確保する事が必要になる。通常、ワークフロアのゴミの収集は、ビルメンテナンス会社が管理しているため、リユースカップを導入する場合、回収専門業者の入退室、置き場所の確保、及びビルメンテナンス会社への保管作業の委託等々、オペレーションに関する協議事項が多く折衝も一様ではない。各建物によって異なるビルメンテナンス会社との取り決めにも対応することが課題である。

3)リユースカップ自体に利用者側からの馴染みが乏しい 

最後に、実際にリユースカップを導入するにあたり、利用者となる企業にとって社会的認知がないリユースカップを積極的に導入する動機が働きにくい上、導入への心理的・物理的負担感が先に立ってしまうことも相まって、検討の俎上に乗りにくい。社会的認知度と共に、その意義の理解が今後の課題となる。

 以上のことから、日本企業のオフィス内にリユースカップを普及させて行くには、まだまだ時間がかかると考えられる。

一方、リユースの普及に関して世界に目を向けてみると、リユース品使用の先進国と言われているスウェーデンやドイツでは飲料を販売する際に、ペットボトルやビンに対してデポジットを徴収している。例えば、ペットボトル飲料を近所のスーパーで購入した場合は、空のペットボトル容器を購入店へ返却、また飲食店でテイクアウト用の飲料を購入した場合は、最寄りの系列店に容器を返却すれば、デポジットが戻ってくる仕組みを取っている。そして、リユース品にかかる費用のメーカー負担に関しては、リユース品を製造した段階のみに税金をかけ、それ以降商品販売にリユース容器を使用していれば、何度売れても税金がかからない仕組みとしている。これらの取り組みによって普及に力を注いでいる事例もある。

日本においては、これまで述べてきた、乗り越えなければならない壁がある。参考にしたいのは、1990年代の深刻な環境汚染とゴミ集積地の不足といった理由により国や行政を巻き込んで、ゴミを細かく分別するという活動が徐々に日本で浸透し始めたことだ。時間はかかったが、国内においてゴミ分別はどの地域でも当たり前のことになった。あらゆる手段を講じ、分別の啓蒙とリサイクル活動が一般生活者の意識に根付いたためだ。

リユース品の普及は引き続き低調ではあるが、地球温暖化をはじめとした環境悪化の問題は待ってくれない。日本だけでなく世界各国と手を取り合って最適な解を導き出していく必要がある。日本でも個人の小さな活動がやがて大きなムーブメントとなり、“リサイクル”に軸足を置いている社会から、“リユース”が当たり前となる社会を希望し、まずは自分のできることを進めていきたい。

Joker

2019年10月23日 (水)

人は変わることができるのか

  先日、前職(新規事業開発の支援会社)で一緒に働いていた同僚と数か月ぶりに会った。会話するうちに筆者は、同僚が見違えるように変わったと感じた。同僚は、自身の考えを伝えきれず周囲の雰囲気に流されてしまうところがあった。また、顧客と会話する時には頭が真っ白になってしまい、何を発言すればよいのか分からなくなり、“自分は顧客に価値を提供できないため対価をもらう 資格のない人間だ”と自虐的になるなど、自信がないようにも見えていた。しかし、会わない間に同僚は、おかしいと思ったことをおかしいとはっきり口にするなど自分の気持ちを明確に表現するようになり、言動には自信がみなぎっていた。

 同僚に聞いてみると、「顧客への提供価値は会議で気の利いたことを発言することだけではない。自分は、対価を得ることを難しく考え過ぎていたため、自身のやり方でお金を稼げるようになることを目指した。そして、個人事業主として成功している人に共通する要素を自分なりに見つけて、その要素を取り入れるようにした。」と言っていた。

 また、「同じような悩みを持ちながらも自分らしく生きようともがいている人と意識的に付き合うようにした。自分はコミュニケーションが苦手なダメな人間だと自己否定の感情を持たないためにも、あえて前向きな言葉を使うようにしている。」と言っていた。

 他にも、「“楽しくない・やりたくない”と思うことはしないようにした。相手のペースに合わせた対人折衝を求められる仕事は不得手であるため、脱サラし元々副業していた転売やアフィリエイトなどほとんど自己完結できる仕事にシフトし、個人事業主として独立した。」と言っていた。

 筆者は、人は短期間でこうも変わることができるのかと驚いた。人には、内部や外部の環境変化に関わらず生体の状態が一定に保たれるホメオスタシス(恒常性)と呼ばれる性質があると聞くが、元来人が変わることは難しいと考えていた。同僚が変わることができた理由を改めて同僚との会話や調べたことを参考に考察してみたい。

 同僚との会話を整理すると、同僚は自身を変えるために、①なりたい姿をイメージし、②付き合う人を変え、③言動を変え、④苦手なことを捨てた、ということだろう。

 まず、4つに関わる内容について調べてみると、“レファレント・パーソン論”という考え方に行き着いた。いわゆる自己肯定感を高めるための手法で、偉人の生き方、価値観、思考法、行動を参考に、自身の課題を見つめ直し人生の判断や選択をするというものだ。同僚が、個人事業主として成功している人に共通する要素を参考に自身のやり方でお金を稼ぐこと目指し、同じような悩みを抱えながらももがいている人と付き合うようにしたことや自己否定の感情をなくすためにあえて前向きな言葉を使うようにしたこともこの考え方に当てはまると思った。

 次に見つかったものは、“人は3日で変われる”というアドラーの言葉であった。近年、“嫌われる勇気”などアドラー心理学に関連する書籍をよく見かけるが、アドラーの主張は、“人は、変われないのではなく、変わらないという決心を下しているに過ぎない。変わる勇気があれば人は変わることができる。”ということに集約される。その思想から“勇気の心理学”とも呼ばれている。同僚が、“楽しくない・やりたくない”と思うことをしないと決め、不得手な対人折衝を伴う仕事をやめたことは、苦手なことを捨てる勇気を持つというアドラーの考え方に類似していると思った。

 このようなことを調べるうちに筆者は、同僚が自身を変えるために実施した①~④は、ビジョンの策定、アライアンス先やターゲットの変更、コーポレートメッセージの変更、リストラクチャリングなど企業の変革戦略に通じているということに気が付いた。

 通常、企業は自社を変革して持続的に成長するために戦略を策定する。筆者が考える戦略は、なりたい姿を明確に描き現状とのギャップを埋めること、つまりAs-IsとTo-beを明確にすることから始まる。同僚は、個人事業主を目指してなりたい姿を描き、個人事業主で成功している人の共通要素を洗い出すことで、なりたい姿と現状とのギャップを埋めようとしていた。

 また、企業が新たなビジネスモデルに変革する際に、アライアンス先や獲得する顧客層を変更するように、同僚は同じ悩みを持つ仲間と集まるなど付き合う人を変えていた。

 他にも、企業が新たなビジョンの実現に向けて社員の行動を変える際に、コーポレートメッセージを変えるように、同僚は思考や行動がより前向きなものになるように自身の発する言葉を意図的に変えて(コントロールして)いた。

 そして、企業が自社の弱みを捨てて、自社のリソースは全て強みを伸ばすことに集中させる“選択と集中”を行うなどリストラクチャリングを敢行するように、同僚は転職、副業、兼業、自営業、アルバイト、フリーターなど様々な選択肢がある中で、自身の経験を活かした転売やアフィリエイトで稼ぐ個人事業主になるなど“選択と集中”を行っていた。

 不思議なことに、上記4つを実践している企業は多くあるにも関わらず、イノベーションが起きづらい昨今の企業状態を踏まえると、変革成長を遂げている企業は少ないように思う。そこで筆者は、同僚の以下のような発言を思い出した。

 「個人事業主で生計を立てられるようになったノウハウを自分で稼ぎたいと思っている人に伝えている。転売やアフィリエイトなどのスモールビジネスは、世間ではあまりいいイメージを持たれていないが、ノウハウを共有することで関わった人を幸せにできる仕事であると思う。その中で、自分と同じように自己否定の感情で苦しむ人がいたら、自信を持って生きていけるようになるためのサポートをしたい。」

 つまり同僚は、個人事業主としての成功を目指しながら、苦しんでいる人を助けたいといった“誰かのために役に立つ”という思いを強く持っていた。そして、経験やノウハウを共有するなど、人を幸せにするという自身の思いを体現するための行動を実際に移していたのだ。

 企業の役割が、社会課題の解決や人々の生活を豊かにするという理念をビジネスという手段で体現することであるならば、“誰かのために役に立つ”という精神を持った人材を一人でも多く育成し、その価値観を企業全体に浸透させていくことこそが、企業の変革に必要な要素となるのではないか。

 今回の考察では、企業や個人が短期間で変わるためには、“誰かのために役に立つ”という精神を持ち、変革戦略である①~④のプロセスを踏むことが重要であるいう結論に至った。同僚のエピソードが、変わりたい、前を向きたいと思っている方に少しでも参考になれば幸いである。 

                                                                               R2D2

2019年10月21日 (月)

OMO時代にある駅

 先日、日本本土に超大型台風が襲来し、大きな被害をもたらした。

 被災された皆さんへは心よりお見舞い申し上げるとともに、被害に合われた地区の皆さんには今後の生活の安寧と一日も早い復興をこの場を借りてお祈りさせてもらいたい。

 私の住む地域は東京の西側にあり、例外なく超大型台風の直撃を受けたが、事前情報による準備と比較的高台に位置していたこともあり、幸いにも無事であった。だが、もう一つ前の台風のときは、交通機関が完全にストップし、朝の通勤ラッシュ時というのもあり駅が人であふれかえっていた。その日の出社を見合わせる方も大勢出たことだろうと容易に推察できる。

 

 さて、本稿はそのような交通機関が災害でストップし、駅前が人であふれかえる光景を目の当たりにしたときに巡らせた妄想についてここに書き留めるものである。

 

 本題に入る前に、タイトルに掲げたOMOの考え方について、簡便に紹介したい。OMOとは、Online Merges with Offlineの略で、この言葉自体は、グーグルチャイナの元CEO李開復氏が2017年9月ごろ提唱し始めた。参考までに、彼の著書の中での記述を以下に引用する。

 

 「ソファに座って口頭でフードデリバリーを注文することや、家の冷蔵庫にあるミルクが足りないことを察知してショッピングカートへの追加をサジェストすることは、もはやオンラインでもオフラインでもない。この融合された環境をOMOといい、ピュアなECからO2Oに変わった世界をさらに進化させた次のステップである」

 

 メーカーや小売りなどで一時代前に声高に語られていたO2O(Online to Offline)の世界観は、“オンラインをどう活用するか”というリアル起点でデジタルを発想する考え方であり、企業目線で語られる内容であった。しかし、OMOの世界観は、デジタルが急速に進化を遂げる時代を受け、“データを軸にリアルをどう便利にするか”というデジタル起点でのリアル活用の視点に進化を遂げ、それは常に顧客目線で最適解を求める思考が当たり前になる世界に変貌を遂げることを意味する。

 具体的にわかりやすい例を挙げるならば、皆さんは知らない土地に何か用事があって出向く際、まずスマホでマップを表示し、目的地までのルートを探してから、目の前に広がる道路や標識を捉え、歩を進める方が多いのではないだろうか。スマホがなかった時代は、道の標識を探したり街並みの雰囲気などを見たりして、歩むべき方向を選び歩を進めていたかもしれないが、そこからは大きく変わった。食事する店を探すときも、看板の雰囲気や外観、漂う香りなどで決めることよりも、まず食べログなどからお店の情報や位置を取得して決めることが多くなってきているだろう。それこそデジタルが当たり前、デジタルのほうがリアルよりも先に利用している世界になる。それの延長線上にOMOの世界がある。

 中国のフ―マーマーケットや平安保険グループなどOMOの世界における先進企業として名前があげられるが(詳細は、文末記載の参考書籍をご覧いただきたい)、それらの企業に共通しているのは顧客の行動データをオンライン/オフライン両面から数多く取得し、それらを基に顧客目線で最適な価値を提供している点である。つまり、顧客データの量・質とその活用が肝となっている。

 

 さて、冒頭の話に戻るが、私は交通機関のストップによって駅前に人があふれている光景を目にしたときに、このOMOの世界が頭の片隅にあったこともあり、なんて数多くのデータがそこに密集しているのかと感嘆した。きっとデータサイエンティストを本業にしている人が見たら、駅というのはそのようなデータ集約拠点として機能していると見て取るのではないだろうかと。駅の再開発といえば、JRや私鉄各社の動向をみても、基本的には沿線価値の向上であり、駅そのものをどうこうするというよりも、駅周辺の施設開発などを推し進めていることが多い。だが、もしOMOの世界観から駅の再開発を考えるとすると、大きなパラダイムシフトが起きるのではないだろうか。

 駅における顧客行動データというと、現状は、おそらく交通系ICカードによるデータ取得とその活用がメインになっていると思われる。しかしながら、駅周辺に様々なIoTセンサーが設置され、それ以外の行動データが交通機関と連携されて活用できるようになると、例えば次のような世界が訪れるかもしれない。

 

1)交通機関における広告最適化とAR/VR活用によるサービス体験の実現

 今の車内ビジョンでながれる動画広告や車内に吊るされている広告は、マスに訴えかける内容である。だが、それだけではなく、興味をもった(更なる妄想としては、興味をもったというような感情面の機微もセンサーで検知し、自動検出されるようになると面白いが)個々の乗客は、自身のスマホに特定の広告内容に紐づくキャンペーンチケットのようなものをダウンロードすることができ、乗降した駅構内でそのチケットを使うことで、その商品が置かれていなくてもAR/VRを活用して商品やサービスを疑似体験できる(広告の追加コンテンツを楽しむことができる)ようになるかもしれない。そして、それは企業側にとっても興味を持った潜在顧客データが届けられることとなり、さらなる商品・サービス開発に活かされるようなスキームができあがる。そうなると駅がデータプラットフォームとして様々な企業が活用をはじめる対象チャネルとなる。

 

2)心身の健康状態に合わせた最適な交通手段の提案と交通機関内でのサービス提供

 定期購入時にデータ提供に同意した顧客に対しては、ウェアラブル端末などに紐づいた心身の健康状態のモニタリングデータを基に、毎日の通勤・通学がより快適になるようなルートやそれに紐づくサービスの提供が実現できるかもしれない。(例えば、ストレス度がピークに達していれば、比較的空いている乗車時間・乗車車両への誘導が乗車時間までの近隣にある喫茶店やマッサージ店のクーポン券と合わせてスマホに通知が届くなど)

 

3)行動データに基づくダイナミックプライシング

 飛行機などではすでになされているが、電車でも同じように駅利用者の混雑状況に合わせて最適化された価格設定を実現し、混雑緩和、通勤ラッシュ解消などにつなげることも想像できる。(国策と紐づく企業の取組としてはハードルがあるかもしれないが)

 

 ちょっとした妄想の域をでない話の数々であるが、駅に限らず商業施設や高速道路のPA/SAなど、リアルにある様々な施設・拠点をOMOの世界観から眺めてみると、皆さんの生活価値を大きく変革向上させる取り組みがみえてくるのではないだろうか。まさに、デジタルが席巻し始めた今の時代に生きる一人の人間として、そのような視点で、様々な企業の次の戦略・アクションを注視していきたい。

 

参考書籍:「アフターデジタル」 著―藤井保文・尾原和啓

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