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2019年8月

2019年8月16日 (金)

DXとDAO

つい昨日までDX(デジタルトランスフォーメーション)の話題で、多くのビジネスパーソンがその知識習得にやっきになっていた。しかし、そのイメージは未だ伝わってこない。

例えば、こんなイメージならどうだろう。家電メーカーは家電をつくるが家電そのものを売るのはやめる。その代わり、使った状況に応じて利用料を支払うことに。具体的にはこんな事が考えられる。

1台10万円の冷蔵庫を量販店で買う場合、買い方は現金かクレジットカード(分割可)やローンがある。分割払いや、割賦払いを利用すれば金利もつくので、10万円以上の支払いをしなければならない。
一方、マイクロペイメントのような課金プログラムが実装されたなら、冷蔵庫を無償で提供し、冷蔵庫と冷凍庫のドアの開閉回数に応じた課金が可能になる。
仮に、冷蔵庫のドアを開ける回数1回につき0.8円。冷凍庫は1回8円と決めておく。都心で働く1人暮らしの20代女性の冷蔵庫ドア開閉を、1日平均10回、冷凍庫ドア開閉1日平均5回とすると、1日当たりの利用料平均は48円となり、365日を乗じると、年/17500円となり、5年使えばで87,500円となる。2人暮らし世帯になれば、開閉回数も増えることが期待できる。
考え方にもよるが、家電メーカーは売らなくても収益化は可能になる。
これを支える技術は、ブロックチェーンのマイクロペイメントシステムではないかと言われている。事実、ブロックチェーン技術は既にアメリカの不動産業界において、スマートコントラクトといった契約方法で実現している。不動産は権利は複雑で高額の取引となる、ブロックチェーン技術によって購入と同時に登記の登録まで一貫して行ったという実績もでてきた。

更に技術に支えられた組織のあり方も変わっていく。自律分散型組織=DAO(Decentralized Autonomous Organization)。例えば、会社経営には管理者と労働者がいるのが当たり前だと思っているが、そこが変わる。管理者はいるが、労働者がいない組織。これは大手自動車製造業の工場など、人は殆どいないし、高速道路の料金所も人がいなくなった。こここまでは自律型とは言わない。DAOの世界のポイントは、管理者が不在という点がポイントだ。例えば、タイムスの駐車場においてある車にUberボタンが実装されていることを想像してもらいたい。誰でもいつでも好きな時間に車を借り、少し時間があれば、好きなだけUberのドライバーとして働くことができる世界が実現すれば、管理者はネットワークシステム、労働者は免許証をもったカーシェアリングを利用する全てのドライバーとなる。(日本国内ではUber Eatsの労働者が都内のレンタルサイクルを使っているケースが既にある)要は登録さえすれば、管理者不在でネットワークシステムが労働者に仕事を提供する世界だ。
更に、無人の自動運転が実現すれば、労働者も管理者もいない移動手段が可能になる。このような組織が実現するには今暫くの時間を要するだろうが、DAOはこれから着実に増えていくと考えられている。自律型分散組織は、そのビジネスモデルを提供するオーナーはいるが、人と組織を管理する必要性がほぼなくなってくることを意味する。そういった組織が現れる時代になった。

日本は過去の仕組みや慣習から抜け出すのに時間がかかりすぎた。そのことを省みて、中国に学び、リバースイノベーションを模索する流通企業もある。その方が経営のデジタル化を早く手に入れられるからだ。DXの周回遅れとなった日本企業の感覚では、日本でDXを進めていてはさらなる周回遅れに見舞われる。
日本でDXを進めるのであれば、まず考え方を変えなかればならない。私達の生活行動の全てをデジタル化すること。それが大前提。その上で、これらのデータはマーケティングに活かし、かつ最高の顧客経験価値へとつないでいく発想への転換が不可欠になる。
先に述べたように、家電も買わなくてよくなるのであれば、壊れるまで使って購入するよりも、5年ごとに新型家電に変えることが経験価値を高めることになる。そして、家電を利用した顧客のデータは全て収集すし、これらのデータを更に新しい経験価値づくりに活用するサイクルを生みだすシステムが、DXの世界であり、DAOの世界である。

日本の社会を変えていく上で、重要な企業経営の課題の1つは、経営のDX化と組織のDAO化だ。創業から10年以上を経過した企業は、この2点を与件とした経営改革を進めるべきだろう。ここでは、紹介しないが、何故、そうなのかを考える材料を1つ提供しておきたい。それは、全く新しい大学(プログラミング大学)のあり方を創った42USAについて調べてもらいたい。授業料無料、寮費無料、就職先はGAFAをはじめ世界トップレベルの企業から在学中にスカウトが来る。授業に教師はいない、課題は自分か生徒間で教え合う。まさにDAOの世界観そのものでもあり、学校が授業料をとらず無料で有能な人材を集めて利用してもらっているのだ。一度自分の目で確かめてもらい、将来の経営の参考にすることをすすめたい。
https://www.42.us.org/

クローサ No.10

成長を続けるTKPの行く末

貸会議室大手ティーケーピー(以下、TKPと表記)の勢いが止まらない。

TKPは、空きビルを借り上げ、貸会議室に改装して企業などに時間単位で貸し出す事業を担ってきたが、近年、室料以外の収益源を確保するビジネスを上手く展開し、機材レンタル、飲料・宴会サービスをオプションで提供して客単価アップを図る一方で、弁当会社の買収などでサービスを内製化し、利益率を高めてきており(※1)、2017年に東証マザーズに上場している。
直近においても、07/01にホテルなどに配膳係となる人材を派遣する「品川配ぜん人紹介所」(東京・港)を買収し、一流ホテルを顧客に持つ同社を取り込むことで、貸会議室へのケータリングサービス強化や人材育成拡充につなげようとしている他、06/21には、サッカーJ1の「大分トリニータ」を運営する大分フットボールクラブ(FC、大分市)と資本提携し、自社の拠点で大分トリニータの試合のパブリックビューイングを開催するなどエンタメ分野での展開も検討を進めている。また、昨今のインバウンド増加に伴う宿泊施設の不足の波になり、出張で東京に来たビジネスパーソンを対象とした宿泊分野の伸びも期待されている。

 

2020年2月期第1四半期 概況(連結) (単位:百万円、構成比%) ※()内は2019.2月期第1四半期

連結売上高 10,405(9,118)
室料            5,430(4,894)     52.2%(53.7%)
オプション  1,005(840)         9.7%(9.2%)
飲料            1,937(1,732)     18.6%(19.0%)
宿泊            1,257(834)        12.1%(9.2%)
その他           773(815)           7.4%(8.9%)
営業利益   2,087(1,765)    20.1%(19.4%)

そして、同社は今年の4月に「リージャス」などのブランドでシェアオフィスを世界展開するIWG(スイス)から日本法人「日本リージャスホールディングス」を約450億円で買収し、シェアオフィス事業に参入している。そして、08/09には、台湾最大手のシェアオフィス企業の台湾リージャス(シェアオフィス14拠点を展開する)を約30億円で買収したことを発表した。そして、同社が6月に買収を踏まえた新中期経営計画の中でも、フレキシブルオフィス(※以下ご参照)提供者になることを明言している(16日に中期経営計画の見直しを公表するとしている)。

 

新中期経営計画の基本方針(※2)

当社は以下を新中期経営計画の基本方針といたします。
①当社と日本リージャス社とのリソース融合による、共同での物件開発・商品販売・拠点運営の推進
②日本最大のフレキシブルオフィス提供者として「働き方改革」を推進し、BtoBを中心とするサービス展開の拡大及び顧客満足度・リピート率の向上
③フレキシブルオフィスと関連する新規事業分野の開発・M&Aの促進

 

※フレキシブルオフィス
サービスオフィス(レンタルオフィス)とコワーキングオフィス(シェアオフィス)の合計。一般的なオフィスの賃貸借契約ではなく、より使用者の目的に対応したワークスペースを利用することができる新しいオフィス。

 

シェアオフィスは、主にオフィスの床を長期で借り上げて転貸するビジネスモデルである。近年は、企業の「働き方改革」やスタートアップの活況などを背景に需要が伸びており、不動産サービスのJLLによると、東京都心5区のシェアオフィスは13年以降に目立って増加しており、18年末には床面積が15万6000平方メートルと前年比48%増え、19年もさらに拡大する見通しである。首都圏のフレキシブルオフィス市場規模を見ても、日本オフィス市場規模:20兆円に対して、19年は2,000億円(1%)であるが、30年には6兆円(30%)にまで拡大すると予測されている(※2)。最近でも、三井不動産や三菱地所などの不動産大手の他、西武グループも参入を表明し、競争環境は厳しくなってきている。また、そこに賃料の上昇も伴い、シェアオフィス事業の一般的な利益率は決して高くはないのが現状である。先述したIWGの18年12月期の連結営業利益率は6%であり、18年に日本へ進出し、ソフトバンクグループが出資する米We workは事業拡大に伴う投資が先行し、赤字が常態化している(※3)。

 

前述の通り、TKPは従来事業が堅調な成長を続ける一方で、19年2月末時点の自己資本が106億円の同社にとって、「リージャス」の買収が財務に与える影響は大きい(負債合計 前四半期比+102.3%)。そのため、拡大を続けるシェアオフィス市場のシェアをどれだけ獲得していけるかが、経営上の大きな課題になることは間違いない。そして、大きく以下4つの理由により、重要なイシューは、「デジタル化支援を含む中小企業向けサービスのカバー」だと、私は考える(※4)。

➀現在のシェアオフィス利用者層は、従来のITやコンサル系企業の経営者、フリーランスやスタートアップ社員から、日立やNTTドコモ、味の素や資生堂など日本を代表する大企業の社員に移り始めているが、中小企業の社員による利用が進んでいないこと。(※5)

②日本の大企業と中小企業の企業数と従業員数を比較した時に、大企業は11,000社/1,433万人、中小企業は380万9,000社/3,361万人であり、市場として中小企業のパイが大きいこと。

➂世界各地に拠点を持ち、シェアオフィス市場を牽引するWe workは大企業向け社員向けにサービスを展開しており、中小企業向けサービスを主力事業として展開し、知見を持っている競合企業が存在しないこと。

④国や企業の「働き方改革」推進の下、中小企業においてもシェアオフィス利用の需要が増えると見込まれる一方で、中小企業は業務のデジタル化(この場では、紙などの現物を用いずPCやタブレットだけで業務ができる状態を指すこととする)が進んでいないことがボトルネックとなり、シェアオフィスを利用しようにも業務にならないため利用が進まないと考えられること。

特に、この➃に関しては、対面などのアナログ的なコミュニケーションからメールやTV会議などを駆使したデジタル的なコミュニケーションへと変えていくにあたり、心理的な抵抗(ex.対面でないとコミュニケーションはできない)や金銭的な負担が生じることが予想されるため、いかに、デジタル化を支援していくかがポイントになると考えられる。

成長市場とみなされていたシェアオフィス市場は、既に群雄割拠の様相を呈してきているが、順調に成長を続けるTKPが次にどのような一手を繰り出すのか、注視して見守りたい。

 

 

<脚注>

※1:TKP 「2020年2月期 第1四半期 決算説明資料」より抜粋
※2:TKP IRニュース「新中期経営計画の策定に関するお知らせ」より抜粋
※3:米調査会社CBインサイツの調査結果による
       直近のウィーカンパニーの企業価値は470億ドル(約5兆円)
       19年1~6月期の売上高      :15億3542万ドル(前年同期比約2倍)
                            最終損益   :6億8967万ドルの赤字
       18年1~12月期の売上高    :18億2175万ドル
                            最終損益   :16億1079万ドルの赤字
※4:シェアオフィスを推進する上では、利用企業において「多様な働き方を実現するための人事制度の構築」も必要にはなるが、TKPが決算説明資料で明示している「市場の周辺サービスの拡大」には当たらないと判断したため、今回の論点からは外している。
※5:公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告書 No.15 2017年2月より

ノラ猫