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2019年4月

2019年4月30日 (火)

ゲノム編集食品が消費者に受け入れられるために必要なこと

 今年の3月18日、厚生労働省がゲノム編集で開発した一部の食品は従来の品種改良と同じであるとして、同省の安全審査を受けなくても届け出だけすれば流通を認める方針を固めた。遺伝子を効率よく改変できる「ゲノム編集」という技術を使った食品が、早ければ今夏にも市場に流通することになった。

 

 ゲノムとは、遺伝子などがもつすべての遺伝情報のことで、それをあたかもパソコンで文字や単語、文章を編集するかのように、自在に切り貼りできる技術がゲノム編集である。ゲノム編集は、難病治療として医療への応用が期待されている。体内で病気を引き起こす遺伝子変異を直接修正することにより、病気の原因を根本から絶つ時代が間近に迫っている。医療分野に加え大きな衝撃をもたらすと言われているのがゲノム編集による農作物や家畜や魚などの品種改良への影響である。これまで海外ではゲノム編集で変色しないマッシュルーム、角のない乳牛、筋肉量の多い牛、耐病性小麦等が開発されてきている。日本では京都大学等が開発している筋肉量が約1.2倍のマダイ、血圧上昇を抑える効果のGABAを多く含むトマト等と大学や企業での開発の品種は増え続けている。

 

 こうした努力の一方で、品種改良された新たな食品は日本の一般消費者に受け入れられるのだろうか。かつて1980年代に遺伝子組み替え技術が品種改良に使われ、遺伝子組み換え食品(GMO)が次々に開発されたが主に安全性への懸念からGMOは主に家畜の飼料として使われ、世界中の一般消費者の食卓に上ることはほとんどなかった。現在アメリカでは、かつてのGMOの時のような一般消費者の反対運動を恐れ、いきなりスーパーマーケットで販売する主要食品として製品化するのではなく、最初は目立たないニッチ商品(例えばトウモロコシ成分を加工したスティック糊など)として提供している。

GMOが消費者から避けられていた原因は2つあると考えている。1つは既に様々な議論がされているがGMO技術の限界による安全性への懸念が挙げられる。外来遺伝子をDNAに組み込むことは出来てもそれが組み込まれる場所に関しては指定できなかったことがある。何らかの機能を付加させるための外来遺伝子はDNAにランダムに組み込まれるためそれが他の遺伝子と予期せぬ相互作用を起こし食の安全性を脅かす可能性があると指摘されていた。もちろんそういった安全性を確保するために選別や対策は施され、科学的にGMOが危険だということは今だに立証されていないが、消費者心理にすり込まれた不信感はぬぐい去れなかった。

ゲノム編集は、編集位置の正確性、低コスト、扱いが簡単な特徴を持つゲノム編集分子ツールのおかげで狙った遺伝子をピンポイントで切断、他の遺伝子を挿入できる。このうち遺伝子を組み入れるタイプのものは規制対象になるが、切断だけする方法は自然界の突然変異とプロセスは違えど得られる結果は同じで、安全性に問題はないと多くの専門家は見ており厚生労働省も特別な安全審査を実施しないことを決めている。つまり規制対象外にして届け出は任意となり技術的には安全面でGMOほど懐疑的な見方はされないだろう。

 

 GMOが受け入れられなかった2つめの原因は、消費者から本当に必要なものだと思わせられなかったことも考えられる。消費者の利点を訴求するより、農家にとっての利点を訴求した消費者視点に欠けた研究開発の姿勢が原因だ。その結果、干ばつに強いトウモロコシや害虫への抵抗力を備えた農作物等は農家には受け入れられたが消費者からは毛嫌いされていた。何故なら農家の生産性が上がっても消費者の食生活を改善することに繋がらないためだ。生産性向上による小売価格が下落する可能性もあるが、需給環境によって必ずしも保証されるわけではないし、食の安全性の懸念を考えるとそこまでの価値がないと消費者は受け止めたのだろう。ゲノム編集食品がGMOの二の舞にならないためには何が必要なのだろうか。

例えば近年、マグロなど水産資源の乱獲を防ぐ目的から国際条約により漁獲量が規制され、その価格が高騰してきている。そこでゲノム編集を使えば「ミオスタチン」という遺伝子をピンポイントで破壊することにより、魚の肉量を大幅に増やせることが可能となる。実用化されれば養殖魚の肉量が増加するため、小売価格が下がると共に天然魚の乱獲を防ぎひいてはその再生に繋がる可能性があるなどといった説明だ。生産者のための品種改良で、食の安全性までを考慮すれば消費者の利益にならないと思わせない努力も必要になる。

またゲノム編集食品は遺伝子組み換え食品で見られた、収穫量の向上や、味を良くするための品種改良より短時間低、コストで正確に遺伝子を編集でき高度な品種改良が実現できる。例えば、植物油に加工したときに人体に有害とされるトランス脂肪酸を発生させない大豆など消費者の健康面までに配慮した改良が可能となる。食料危機や、環境問題、健康への貢献等、消費者に必要性を伝えられればGMOが踏んだ轍を回避できる。

 

 ゲノム編集食品に対しては一人一人の立場や国の違い、あるいは食習慣や宗教などの違いにより賛否両論分かれるだろうが、議論の前提として、品種改良を行う科学者や企業からの正確な情報開示が必須となる。供給者は独自の関心や目標に従って研究開発を進めてしまうのではなく、安全性を訴えるのと同時に何故それらの品種改良がこれからの社会に必要とされるのかを説明することが求められるだろう。

エウロパ

2019年4月26日 (金)

無縁化する日本

<広がる社会問題 無縁化する日本の実態を垣間見る>

国立社会保障・人口問題研究所は、2040年までの世帯数の将来推計を公表した。

2040年には世帯主75歳以上世帯が1217万世帯、全体の4分の1を占める。その中で独り暮らし世帯も500万人を超える。国として社会保障や生活インフラを変革することを迫る数字である。しかし、この数字をマクロトレンドとして捉えているだけでは、社会問題として捉える事はできない。この実態を目の当たりして最初に思い浮かんだことは、独居老人が一人で暮らす不安から、一人で死を迎える不安に変わっていくのではないかということだ。平成から令和へと元号は変わる中、この社会問題は深刻だ。

NHKの取材によると、2017年の無縁死(誰にも看取られず1人亡くなる人)の数は約3万2千人。その多くは、単身者である。更に3万2千人の無縁死のうち、身元不明者は1,000人近くあったという。身元不明の遺体については、警察、自治体が調査してもその身元が掴めない。その結果、こういった無縁死を遂げた亡骸は「行旅死亡人」と呼ばれる事を知った。私達が気づかないうちに広がっていた無縁死は、これからも広がる可能性が高い。どうしたらこれをくい止める事ができるのか。国の社会保障やインフラ整備を待っている間にも、無縁死は確実に増えていく。

「行旅死亡人」は、行政が日々官報に報じていくが、行方不明者の捜索でもしていない限り、官報を気にかける人はほぼいない。一方、無縁死によって亡くなった方の身元がわかったとしても、兄弟や親戚が遺骨を引き取ることを拒むケースが少なくない。

それを証明するかのように、特に都市部では、特殊清掃業者の仕事が増えている。特殊清掃業者は無縁死した人の屋内清掃、送骨(遺骨を合同供養してくれる寺へ送ること)等を引き受けている。特殊清掃業者への依頼主は、行政や、無縁死した家族・親戚縁者である。

無縁死の問題の本質は、無縁社会に生きている1人ひとりの生き方の問題でもある。その原因を探っていくと、家族や、会社とのつながりを無くし、孤立する人々の姿が浮き上がってくる。都会に出たまま故郷に戻れずに、無縁死するケースや、無縁死した後、兄弟などが遺骨を引き取り埋葬する余裕がなく、遺体を医大に献体するケースがあることなどがNHKの取材記録に残されていた。

その一方で、頼れる家族がいない人達があるNPOに殺到している。一人で死を迎えることに不安を抱える人達である。家族に代わり、亡くなった後のことを整理してもらうために、自分の死亡時、死亡後の埋葬等を含め、どのように対処してもらえるかに関する生前契約を行う。生活に余裕がある人であっても、不安を感じて契約する人が多くいるそうだ。ある地域にあるNPOでは既に5千人近くの契約者がおり、最近は50代の契約希望者もでてきているという。

これ以外にも、合同墓地の生前契約もある。他の例では、孤独死を嫌い60代から有料介護施設に入居する人もいる。どのケースもその本質は、一人で死を迎える事への不安と寂しさがあらわれている。

あらためて、老後の不安は、一人で暮らす不安から、一人で死を迎える不安に変わってきた。

この問題を根本から解決することは難しい。しかし、まずこのような実態があると知ることからはじめる事が社会問題を我がこととして認識する上では重要だ。無縁死、否、無縁社会を許す国であって良いのか?もっと自分たちにできることはないか。誇れる国と人生にするために考え行動を起こせば、無縁社会は変える事ができると信じたい。

Reiwa1.0