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2019年3月

2019年3月31日 (日)

「興味・関心」の筋トレ

 先日、家族で金沢まで足を運んだ。幼児を伴う移動のため、行き先にある程度の制限がかかるものの、金沢を訪れるのは初めてということもあり、兼六園、金沢城、金沢21世紀美術館、近江町市場など、メジャーな観光名所を回った。そして、兼六園で、妻からこんな言葉を投げかけられた。

 「兼六園、確かに美しい庭園だけど、本当の良さがわかるのは、もう少し年齢を重ねてからかな?」
 しかし、私はこの言葉に、そこはかとなく違和感を覚えた。
 「果たして、年齢を重ねるだけで、良さがわかるようになるものなのだろうか?」
 取り敢えず、すぐには答えを導き出せそうにはないので、旅行を楽しもうと思い、その場は忘れることにした。

 金沢には、金沢三茶屋街と呼ばれる3つの茶屋街(※1)が存在するのだが、最終日、帰路までの空き時間を利用して、「にし茶屋街」を訪れることにした。そこで、翌日から始まる喧騒に身を投じる前に心を落ち着かせようと、とあるお茶屋さんの戸を開いた。人気が感じられないため、声を上げると、2階から家主と思われる老人男性が降りてきた。中に通していただき、茶菓子を用意してもらったのだが、何と、勝手に金沢の歴史から兼六園の素晴らしさまで語り出した。私は静寂なひとときが欲しいがために入店したので、無論、こちらからお願いなどしていない。始めは、適当に相槌を打ちながら、早く終わって欲しいと思いながら聞いていたのだが、気付くと質問ばかりして、すっかり夢中になっている自分がいた。 

 「金沢に来て一番始めに話を聞いていたら、もっと色々な良さに気づき、楽しめたのに」素直にそう思った。
 と同時に、昨日の疑問に対する答えも浮かび上がった。
 「兼六園の良さがわからなかったのは、年齢の問題なのではなく、自分の興味・関心を十分に向けられておらず、兼六園の良さをわかるための“数多の”情報(ここで言う情報とは、兼六園にて五感を刺激するモノ、更には茶屋街の家主の語りを含む兼六園に関する全ての情報を指す)をシャットダウンしていたからではないか」と。

 

 貴方にも似たような経験はないだろうか。例えば、何回も同じ道を通っているにも関わらず、新しい趣味(Ex.ゴルフ)を始めたら、そのお店や看板が目につくようになった等である。
 どうやら、我々の脳は、情報過多になってパンクしないように、無意識のうちに情報を選別しているらしい。そのため、興味・関心を持ち、意識を向けることで、新しい情報が飛び込んでくるのである。実際、クライアントの方々にも、「(自社・自組織に対する)問題意識や興味・関心を高めて、情報感度を高めることが大事」だと伝えているが、そんな一言で、急に問題意識や興味・関心を高められる人は稀である。

 

 では、どうしたら、問題意識や興味・関心を高められるであろうか。
 今回は、脳科学の視点から、一計を案じてみたい。

 

 まず、脳に関する基礎知識として、「ニューロン」と「シナプス」という言葉を理解しておきたい。人間の脳には平均して1000億個のニューロン(結合してネットワークを形成する神経細胞)があり、殆どのニューロンが膨大な数の別のニューロンとつながりを持ち、絶え間なく交信しながら密接に連携するネットワークをつくっている。そして、細胞同士が接合する部分は「シナプス」と呼ばれ、接合が繰り返される度にシナプスの強度は強くなり、信号が伝達するスピードも速くなる。

 これを前提とすると、「問題意識や興味・関心を高める」ということも、もしかしたら繰り返すことで、強化できるかもしれないことに気付く。そして、それは筋力を鍛えるのと少し似ている。
 少し、話は変わるが、本屋を覗くと、論理的思考力やロジカルシンキングをつけようとするノウハウ本が目につく。しかし、そういった類いの本を読むだけで、楽に身につけられると考えているのは、あまりにも滑稽である。実際、身の回りでも論理的思考が得意だとのたまわる人が増えてきたように感じられるが、少し話してみると、全く身についていないことがすぐにわかってしまう。ダイエットするために腹筋が大事だと本に書いてあったとしても、一晩だけ腹筋してそれでおしまいでは、腹筋が割れるはずがない。毎日毎日、繰り返してやり続けないと決して筋肉はつかない。論理的思考はもとより、同じ脳の構造であるならば、「問題意識や興味・関心を高める」ことについても、繰り返すことが重要であり、決して、先天的なものだとは言えないのではないだろうか。

 また面白いことに、筋力と同じだと思うのは、年齢が若い方が強化しやすいという点だ。40歳過ぎたら腹筋を割るのは大変だが、30代なら半年で腹筋が割れる。20代なら3カ月で割れる。この点は、これまで様々な人を介して得た結論として、論理的思考力についても同じことが言えるので、「問題意識や興味・関心を高める」ことについても同じかもしれない。確かに、自分や周囲の人を振り返ってみると、幼い頃から何にでも興味・関心を持つ子は、大人になってもその特性を引き継いでいるケースが多い。だとすると、やはり「繰り返しの力」の作用を認めざるを得ないかもしれない。

 そこで、私が提唱するのは「ウォーリーを探せ」もとい「○○を探せ」である。ルールは簡単で、就寝前に何か一つキーワードを決めて、翌日の就寝前までに、そのキーワードに関連するもの(看板でも記事でも何でも良い)を10個探すというものだ。意外と簡単なように思われるかもしれないが、実際にやってみると、かなり意識的にならないと難しいことが肌身にしみるはずだ。人間は、何か新しいものを知る・経験すると、一種の幸福感を覚えるため、やると感動する人も多いと思う。是非、一度チャレンジしてみてほしい。

 

 

<脚注>
※1:【金沢三茶屋街】
「ひがし茶屋街」「にし茶屋街」「主計町(かずえまち)茶屋街」

ノラ猫

2019年3月22日 (金)

Digital デオクレ業界

海外旅行に行くと、ライドシェアの利便性に真っ先に気づく人も多いのではないか。ライドシェアが普及している国であればどこでも同じサービスを利用できる。まず、行き先を決め、ピックアップしてもらう場所を決めれば、到着地点までの料金を予め確認でき、渋滞で想定時間以上に時間がかかったとしても料金は予め確認した料金しかかからない。

更に、配車される車の車種、ナンバー、運転手の顔写真も事前に確認できるので、配車される車を間違えることもまずない。加えて、利用後には運転手の評価を促す画面がスマホに出てくるので、運転手は顧客満足度を上げておかないと自分の評価が低くなり、利用者から選択されないことにもなりかねない。そのため、運転手はサービス品質を一定以上に高めようとする動機も働く。まさに、運転者と利用者とシステム提供者の三方よしの形になっている。しかし、日本ではそうはいかない。道路運送法上「旅客自動車運送事業」を営むには国の許可を得ないと営業できない規制があるためだ。まさに、ライドシェア事業者にとって、日本市場の参入障壁は高い。

日本はデジタル時代への対応の遅れが、日本の生産性が低い問題に波及していると言われている。先日、日本の賃金水準が世界に劣後しているとの見出しが日経の一面を飾っていた。背景にあるのは、労働生産性の低さであり、日本の企業経営が賃上げに慎重であったことが裏目に出たとの指摘である。低賃金政策を続ける事で、生産性の低い仕事のデジタル化が進まず、付加価値の高い仕事へのシフトが進まなかった事が主要因だ。生産性も上がらず賃金も上がらない負のスパイラルである。この状況を打破したければ、賃上げショックを与えてでも生産性を上げるべきだとの主張は、説得力が上がっている。しかし、日本の大手製造業が低生産性の問題を抱えているため、平均年収も簡単には上がっていかない。そんな中、大手企業からスタートアップ企業へ転職する相場が一気に上昇を見せている。スタートアップの平均年収は、上場企業の平均年収よりも凡そ100万円程高くなっている。高い年収を払ってでも見合うだけの生産性を実現しようとする、スタートアップ企業=経営者と投資家の意思がうかがえる。いずれにしても、日本はデジタル化に向けた改革を全産業で進め、より高い生産性を追求すべきだ。

さて、話を元にもどすと、ライドシェアの利便性を享受出来ない日本では「旅客自動車運送事業」の運賃ルールを見直す動きが出始めた。あくまでも運賃ルールという名目である点が気にはなるものの、従来とは違うやり方による運賃改定である。国土交通省が主導し、乗車前に運賃を確定するサービスを全国で解禁するというものだ。これは、海外でライドシェアを経験している人から見れば、市場開放を避ける手段に映る。ライドシェアの優位性は、個々の運転手のサービスクオリティを担保する仕組みが機能していることにある。国土交通省も今回の取り組みを運賃ルール改定だけで終わらせるつもりはないのではないか。ライドシェア市場開放に向けた最初の布石なのであれば、日本の交通サービスにも大きな変化が訪れることが期待できる。将来、仮にライドシェア市場が開放され利用者が増えれば、他の交通機関にも影響を及ぼす可能性がある。既に、英米ではライドシェア利用が増えたことで、公共共通機関の地下鉄利用者減といった影響が出始めている。この結果を踏まえ、公共交通機関も根本的な生産性向上策を考えねばならなくなっている。まさに、デジタル時代の交通サービスのあり方を問い直す革新期に突入したと言える。日本においてもデジタル時代の交通サービスの革新に向け、ライドシェアの民間参入を認める規制緩和は欠かせない。Digitalにデオクレた業界の1つであるタクシー業界は、今後どこまで変わっていけるのか。市場開放無き運賃ルール改定に留まっていては、生産性向上は望めない。自ら規制の枠を取り払うことを受け入れ、デジタル時代の新しい交通サービスを日本に普及してもらいたい。

DX+

2019年3月 4日 (月)

SNS興隆時代、情報の快楽に溺れないために

インターネットの発展により我々は、容易く国境や、属性を越えて、人と関われるようになった。その繋がりやすさを加速させたのは、Facebook、Twitter、TikTokのようなSNS。これらに共通しているフォローという機能により、我々は、自分と共通点のある人物や、好きな著名人やコミュニティを、フォローし、自分にとってメリットのある情報のみを、簡単に取得できるようになった。

一方で、自分が不要だと判断した情報や、批判的な人物からの情報も、いとも簡単にブロックできるため、結果として、自分にとって居心地の良いコミュニティや情報のみに囲まれているとも言える。

こうしたネット上のコミュニティ内で意見を発すると、当然好意的な反応や同調のみが起こる。まるで自分の声が反響し、さも大多数に、同調されているかのように意見が強化されるような状態は「エコーチャンバー(共鳴室)」とも例えられている。また、自分が発せずとも、そもそも同じ価値観の人間が多いコミュニティのため、誰かのメッセージもまるで大多数が自分と同じ思いを抱いているような感覚に陥ることすらある。

こうした状態は、自分にとっては、とても心地よい状態だが、こうした「快」に浸り過ぎていると正しい情報の見極めができなくなり、目の前の情報や、自分が発する情報が本当に価値のある良い情報かどうかが、判別できなくなる恐れがある。

実際に、上記のようなネットのコミュニティでは、フェイクニュースや偏った思考もひとたび共感を示す輩が表れると、そのコミュニティ内では、そうした情報を正しいものだと自分の意見のように信じ込み、一気に拡散してしまうことがあると言われている。

筆者がSNSを使い始めたのは、大学生の頃であるが、今後は物心ついたころからSNSを使っている世代も増えていく。こうしたWEB上でのコミュニティによる人の繋がりは、より当然のものになるであろう。注意すべきは、この「快」に浸り過ぎることなく、常に自分をニュートラルに保つことだ。

そのためには、敢えてアナログに一次情報を取りに行く習慣をお勧めする。自分が興味を持った分野の第一人者や、職場の上位者でも、ショップの店員でもよい。面と向かったコミュニケーションで、その道のプロと会話をし、自分の心が動いた、その感覚を大事にすることだ。

大抵の場合、一次情報を取りに行くのは手間である。待っていれば、いつか誰かがまとめサイトやTwitterで情報を流してくれるかもしれない。しかし、直接情報を取りに行く手間と、自分の身体を動かして捉える経験の機会を敢えて作ることは、「快」を求め過ぎてきた現在の情報社会における価値ではないだろうか。また、そうした感情を伴う経験は、長期的にも記憶されやすいとされており、自身の学習面から見てもメリットがある。

いつの時代も、事実は一つだが、解釈は無数にある。

誰かの解釈に振り回されて、心地よさを得るよりも、事実を拠り所に、自分をニュートラルに保つことこそが、このSNS興隆時代に必要な「快」なのではないだろうか。

KM2