2020年1月 6日 (月)

人材育成には『失敗』のデザインを

 先日、面白い記事を見かけたのだが、東京大学の池谷裕二教授によるネズミを使った学習実験の結果、「誤答の重要性」が、脳科学分野でも証明されつつあるらしい※1。主な証明内容は、以下の通りである。

 

 ・学習の初期段階で多く間違えた(失敗した)ネズミほどその後の学習が速くなる

 ・失敗をする時、同じ失敗を繰り返すのではなく、多様な失敗をしたネズミほど最終的な学習の成績がよい

 ・間違える時に熟考した方が学習が速くなる

 

この記事を読んだ時に、ふと、元大リーガーのイチロー選手のいくつかの名言を思い出した(下記ご参照)。

詰まるところ、彼は、失敗を悪だとは捉えずに、失敗(≒挑戦)し続けることを糧としているように思われる。

 

「遠回りすることってすごく大事ですよ。無駄なことって結局無駄じゃない。遠回りすることが一番の近道」

「まったくミスなしで上位にたどり着いたとしても、深みは出ない」

「4000のヒットを打つには僕の数字でいうと8000回以上は悔しい思いをしてきているんですよね。それと自分なりに常に向き合ってきたこと、そういうことがあるので、誇れるとしたらそこじゃないかと思います」

「ヒットをたくさん打つようになってからは、甘い球を待てなくなりました。むずかしい球がくるまで待つという姿勢になっちゃったんです」

「僕なんて、まだまだできてないことのほうが多いですよ。でも、できなくていいんです。だって、できちゃったら終わっちゃいますからね。できないから、いいんですよ」

 

ネズミの学習実験やイチロー選手の話からもわかる通り、失敗は重要だ。但し、誤解してはいけないのは、その本質は「振り返り」にこそあるということだ。つまり、単に失敗を経験するだけでは意味がなく、そこから、自分自身の能力不足、スキルの未熟さに気づき、学び取ることが成長への第一歩なのである(ダニング=クルーガー効果)。この点、成功よりも失敗の方が学び取ろうとするインセンティブが働くことは、行動経済学の観点(損失回避性)から考えてみても納得がいく。

 

さて、ビジネスの世界ではどうだろうか。昨今、どの会社でも新規ビジネスや新規事業の重要性が謳われており、コンサルティング会社である我々もそのようなご相談をいただくケースが増えている。しかし、そのような華々しい号令とは裏腹に、失敗を恐れるあまり、実際には何も動き出せていない会社がごまんと存在する。「失敗は成功の母」とはよく言うものの、周囲を見渡してみても、イチロー選手のように、最初から失敗を望む人は少なく、失敗は絶対的に悪と捉えられるのが現実だ。これを人材育成の現場に置き換えてみると、同じようなことが起きていることに気付く。つまり、いかにその人に成功体験をさせるか?にばかり目を向けて、いかに失敗経験を積ませるか?についてはあまり議論がされていないということである。失敗こそが学びの源泉であるにも関わらずだ。

 

では、人材育成において、どうやって「失敗」をデザインしたらよいだろうか。企業の人材育成担当者、並びに育成責任を負う管理職は、以下を参考に、「失敗」をデザインしてみてはいかがだろうか。

  • Plan :失敗させたい職務経験を整理し、育成対象者にも伝える。※2
  • Encouragement :育成責任者には、失敗することを奨励させる(失敗して当たり前)
  • Experience :育成対象者に失敗させたい経験を伝えた上で、取り組ませる
  • Support :なぜ失敗したのか? どうしたら良かったのか? の振り返りを促す(サポートする)

 

 上記のうち、最も重要なのは、前述の通り「4.Support」であるが、最もハードルが高いのは、「2.Encouragement」であると考えられる。なぜなら、育成責任者の器と組織風土の影響を受け、これらは中々変えづらい性質を持っているからだ。近年、管理職層を中心としたインテグリティや組織風土・組織文化に関する課題が増えてきているが、いかに、ここに目を向けるかが、今後の人材育成のキーポイントになるのではないだろうか。

 

なお、同教授は、私たち哺乳類の脳の成長は、基本的に消去法、誤差学習※3であり、人工知能のディープラーニングも、すべて誤差学習である(人工知能は粛々と失敗をして、次に行う行動はできる限り正解に近づけるように試行錯誤しているだけ)という説明もしている。繰り返しではあるが、AIも然り、我々人間も、どんどん失敗を積み重ねていかないと、成長することは難しいということは、今更言うまでもない。

 

 かく言う私は毎日、もうじき2歳になる息子に「危ないからダメ」「良くないから止めて」というように、中々、失敗を許容することができておらず、反省を繰り返す日々を過ごしている。しかし、決して落ち込んでばかりはいない。なぜなら、これも私の失敗の経験であり、重要な学びである(と信じている)からだ。

 

 

<脚注>

※1:誤答の研究─脳科学の研究で分かった「失敗こそが学び」( https://kyoiku.sho.jp/14654/ )より

※2:人材が育つための要件として、職務経験7割、薫陶2割、研修1割という考えを参考

※3:消去法:「あれをやってはいけない」「これをやってはいけない」と、失敗を消去しながら成長をする

    誤差学習:何かを期待して行動した時に生じる期待との誤差を最小限にするように自分の行動を修正し、失敗を繰り返しては修正していく学習

 

ノラ猫

2019年12月 3日 (火)

IoT×キャッシュレスがもたらした近未来の「私」のライフスタイル

 今日は快晴で気温も暖かく、とても気持ち良い朝だ。普段より少し早く目が覚めたが、いつも通り8時になるとスマートスピーカーのSlexa(セレクサ)が起動し、クラシック音楽が自動で流れ出す。これまでは朝が苦手でけだるかったが、お気に入りのクラシック音楽に出会ってからは毎朝が快適だ。洗面所で顔を洗いキッチンへ向かうと、ポットのお水は既に加熱されており、マグカップにカフェラテの粉末を入れてお湯を注ぐ。ちょうどそのころ、昨夜の内にトースターにセットしていた食パン2枚が焼き終わった。1枚には実家の農家から届くブドウのジャムを塗り、もう1枚には冷蔵庫にあるハムを挟む。最後に棚にあるシリアルを適量入れ、牛乳を注ぐ。いつも同じ朝食を食べながらスマートフォンでニュースをチェックするのが朝の日課になっている。

 トイレや洗濯機、冷蔵庫、テレビ、エアコン、Slexaなど家中のあらゆる家電がスマートフォンと連動することができたのは、政府主導で開発・整備された決済システム「Gpay(ジーペイ)」のプラットホームによる効果が大きい。マイナンバーの個人認証を軸とする情報の一元管理と情報へのインターフェースを統一し、仕様を無償公開したことで全てのアプリケーションや機器類が接続可能となった。このGpayを経由することで様々なデータが蓄積され、それらを利用した様々なサービスが享受できる。また、全ての支払いはGpayを通して行われるようになったので、購入履歴を元に商品の購入頻度や消費ペースは自動で解析され、在庫切れの無いようにリマインドする機能もある。このGpayのおかげで、現金を単に無くすためのキャッシュレスから、生活を豊かにするための様々な情報の横断的な連携による新しい高付加価値サービスが実現することになった。

 例えば、あらゆる購買データが共通フォーマットで整理されているので家計簿はリアルタイムで自動生成される。毎月の予算額に応じたアラート設定も可能なため、大好きなチョコレートの消費をなんとか管理できている。最も、チョコレート購入の半分は新しい商品を手に取っていること、リピートする商品の8割はダークチョコであることも解析されているため、私の嗜好をくすぐるレコメンドが常に誘惑してくるのだが。(レコメンドの頻度や種類も自動で設定できる)

 家庭内の在庫管理機能はかなり重宝しており、朝食の買い忘れは無くなり、シャンプーや歯磨き粉などいつの間にか無くなってしまうような生活用品に関しても適切なタイミングで購入ができている。これまでは難しかった食事の管理も簡単になった。購買データから食品や料理のカロリーと栄養バランスを蓄積し、足りない栄養素のレコメンドや1日の摂取カロリー、推奨消費カロリーが算出される。そして体重や筋肉量の目標設定値を登録していると、これらをもとにトレーニングメニューが提示される。 トレーニング後には実稼働量や体内組成計で測った情報から、今の生活を続けると数か月後にはどのくらいのボディーバランスになっているのかを解析してくれる。算出されたデータを基に常に生活習慣を改めているので病院に通うことも少なくなった。

 病院へ行く場合はGpayから病院の予約ができる。他の病院での診察や投薬履歴が蓄積されているので、既往歴や手術の有無、アレルギー、妊娠有無、通年での健診の数値など、問診票の記載やお薬手帳の管理は不要となり、医師のPCには全てのカルテが表示される。運転免許の取得や更新時に必要な視力検査もこの結果を使えば不要となり、生命保険料は普段の生活習慣や健康診断の結果を基にした健康指数に応じて金額が決まるので、より一層健康に気遣うようなった。また、年間の医療費が10万円を超える年の医療費控除はもとより、生命保険料控除や住宅ローン控除、ふるさと納税などの寄付金控除、副業収入なども全てGpayにて管理されているので確定申告そのものが無くなった。

 

 朝食を終えて身支度をし、会社の命運を左右するA社との大事な商談のために品川へ向かう。ぎりぎりまでプレゼンテーションの準備をしたかったので電車ではなく自宅からタクシーを利用しようと昨日の内に予約していた。行先と送迎時刻は予約時に予め入力しているので、家を出るときには自動運転タクシーが待ち構えている。車内に乗り出して専用の端末にGpayをかざすと「本日の目的地は○○でよろしいですか」と音声で行先の確認をされたので、「はい」と返答しタクシーが出発した。

 道中は、内装されている26型ディスプレイとスマートフォンを接続し、本日のプレゼンテーション資料を投影してリハーサルを入念に行う。リハーサルに対して、スマートフォンに搭載されているAIからフィードバックをもらうこともできる。このAIはおすすめのお店のレコメンド、音楽の選曲、ニュースや映画の配信、恋愛相談、渋滞を避けたナビゲーションなど用途は多岐にわたり、会社や家庭でも愛用されているAIである。このAIはとても優秀で、皮肉にも一部の上司よりも真っ当なフィードバックをくれるので仕事においても重宝している。

 そうこうしているうちにタクシーは現地に到着したが、支払いはもちろん自動で引き落とされる。今回のタクシー料金は会社へと請求するため「交通費精算」というカテゴリに割り振られた。そして会社のGpayと私のGpayは連動しているため、「交通費精算」というワードを拾って自動で会社へと請求されるのだ。実際の精算タイミングは会社の方針に合わせて1カ月に1回や都度精算などの設定が可能であり、どのプロジェクトのための移動であるのかという情報は仕事用のカレンダーと連動して自動認識する。

 AIの的確なフィードバックのおかげで本日の商談は無事成功した。そして新たなスタートを切るべく、場所を変えて懇親会が行われることになった。急遽お店を予約することになったが、先述のAIがさくっと検索して候補をくれたのですぐに予約ができた。食べ物のジャンルや雰囲気の嗜好まで細かく探してくれるため、想像した通りのお店だった。入店時にはGpayをかざすことで飲み会モードに切り替え、何を注文したかもわかるようにしておく。というのも、飲み会の時は普段の食事管理を忘れて良いマイルールがあるのだが、やっぱり健康は気になるのでレコメンド機能は欠かせない。こうしておくと、飲み過ぎだからお水を飲みなさいだとか、肝臓のアルコール分解を助けるためにメチオニンを含む枝豆を注文しなさいだとか、栄養もあって満腹になるアボカドを注文しなさい、など体調を気遣ってくれる。AIのおかげで思い描いた飲み会ができ、レコメンド機能のおかげで気持ち良い酔い具合だ。お会計は各々のGpayを活用することで傾斜をつけるとか、経費精算とする場合でも簡単な操作で対応が可能だ。

 家に帰ると電気が自動でつき、ジャズミュージックが流れる。実は朝のクラシックと夜のジャズは、購入履歴やこれまでに蓄積されたデータから私の人物像や現在の状態を解析し、適した音楽を選択してくれたものだ。その効果は歴然で、眠りの深さと疲労回復度の値は従来に比べて改善されていることが睡眠アプリからみてとれる。

 

 Gpayは、生活の利便性を大きく向上させてくれるとともに、データが蓄積されればされるほど適切な提示をしてくれる専属秘書のような存在だ。人々の生活から現金がなくなり、取引がデジタル化された。アプリやクレジットカードとの連携や決済ルール、レコメンドの有無や分析したい情報など、Gpayの使い方は個々人で自在にカスタマイズでき、自分のライフスタイルに合った支出管理が可能である。従来までの「点」の取引を「線」の取引へと変革し、IoTとの連動で生活の質が格段に上がった。キャッシュレスを単純な「現金を無くす施策」として捉えるのではなく、生活情報を連携・共有・活用することの理想を追求したことによって誕生したこのGpayを起点に、これからも様々なアプリやサービスが産み出され、いままでに考えられなかったような便利で快適な生活が今後も提案されるに違いない。

※当コラムは、最新の情報を元に近未来のライフスタイルの向かうべき形態を推測したもので、GpayやSlexaは架空のものです(実現可能性は未知数です)

 

Chaser

2019年11月18日 (月)

DXの理(ことわり)、日本の課題

 多くの企業で、様々なメディアで、DX(Digital Transformation)の発展を求める声が喧しい。DXが人々の暮らしをより良い方向に激変させるのだという。スウェーデンのエリック・ストルターマン教授が2004年に発表した『Information Technology and the Good Life』で提唱した概念だ。15年も前の論文である。遡ること1995年、マサチューセッツ工科大学メディアラボ創設者ニコラス・ネグロポンテ氏は、当時ベストセラーとなった著書『ビーイング・デジタル』で、アトムの生態系からビットの生態系へと相転移する世界観を展開していた。更に遡れば、1980年代に喧伝されていたマルチメディアもよく似た概念であり、最近のDXの発展を求める声には既視感がある。DXは決して新しい概念ではない。

それが今になって時代のキーワードのように取り上げられている背景には、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)や、BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)など、メガ・プラットフォーマーの台頭がある。民泊サービスのAirbnbや配車サービスのUberなどが、デジタルテクノロジーによって既存のビジネスモデルを破壊しながら爆発的に成長していることもDXを時代のキーワードに押し上げた。企業ではCDO(Chief Digital Officer)と呼ばれる職務が注目され、デジタル人材を求める採用戦線も熱気を帯びている。四半世紀以上も前から提唱されてきた概念の実現化をデジタルテクノロジーの進歩が加速させはじめた、ということなのだろう。

 一方、日本の産業界ではGAFAやBATのようなグローバルな市場で活躍する企業がなかなか現れてこないことが問題視されている。その焦燥感はメディアの論調にも滲む。企業でDXに取り組む幹部たちの目には、羨望の色だけではなく諦念感さえ漂っている。

 

 DXで成功しているビジネスモデルを抽象化してみると、どれもが3つの要素とそれらを繋ぐ価値連鎖によって成り立っているように思える。一つ目の要素は、人々が生成するコンテンツや行動の履歴、あるいは生体情報や財産情報などを蓄積する情報基盤だ。二つ目の要素は、それらの情報を分析して新たな製品やサービスを創出する開発システムだ。三つ目の要素は、個々人の欲求に適した製品やサービスなどを提供するデリバリーシステムだ。提供された製品やサービスへの評価は情報基盤に還元されて価値連鎖を形成する。そして、Big DataやAIやIOTやCLOUDなどのデジタルテクノロジーの進歩が価値連鎖を軽やかにしていく。DXとは、このような価値連鎖を人々の暮らしの中で実現していくことと言えそうだ。消費の仕方、製品やサービスの提供方法、個人の稼ぎ方、社員の働き方、企業間の連携方法、投資の仕方、企業と社員の関わり方、貨幣流通の在り方、人やモノの移動方法、人の成長、社風やモチベーションのつくり方、経験知の活用方法など、人々の暮らしのあらゆる場面でデジタルテクノロジーによる価値連鎖を実現していくのである。

 DXで成功しているビジネスモデルからは、もう一つの共通性を見出すことが出来る。形成された価値連鎖は様々なデジタルプレイヤーの相互の乗り入れが可能で、そこから新たなビジネスを次々と生み出しており、既存の産業分類に収まらない。価値連鎖を新たな産業を共創するデジタル生態系へと拡張させているのだ。中国の4大保険業者である中国平安(ピンアン)や無人コンビニ店の運営を展開している大手EC企業の京東(ジンドン)などもその代表例と言えるだろう。例えば中国平安はひとつのIDで活用できる100種類ものアプリを公開しており、それらは健康維持や生活利便性の向上にも役立つという。中国平安が形成する価値連鎖も旧来の生命保険業界の枠には収まらない。このようなデジタル生態系の動きを見ていると、巨大な細胞培養器の中の活発な生命活動を覗き込んでいるような気がしてくる。

 日本企業のDXへの取り組みはどうだろうか。既存のビジネスモデルの延命策的な改善や部分的なDX活用のパッチワークに留まっており、レッドオーシャンの中にスモールワールドをこしらえて小競り合いを繰り返しているようにしか見えない。その背景には顧客の個人情報に対する囲い込みの論理がある。小さな囲い込みがひしめき合っている日本の産業界からはグローバルな市場で活躍する企業が現れないことも頷ける。最近ヤフーとLINEの統合が取りざたされているが、国内の消費者の一部が多少なりとも決済の利便性を享受できるレベルだ。DXで成功している海外の企業にも囲い込みの論理は働いているが、自社の顧客だけに固執しておらず、世界人口の中で産業の枠を越えたシェアの獲得を想定しているように見える。ようするに囲い込みの規模が桁違いなのだ。日本企業にもそのような発想がないわけではない。しかし、精緻につくり上げてきた既存のビジネスモデルとのカニバリを恐れる気持ちも加わって、思い切った投資を妨げているのだろう。所謂イノベーションのジレンマだ。では、日本企業の打開策はどこに見出すことができるのだろうか。

 

 デジタル生態系の中で価値連鎖が拡大していく過程には一定の法則性がある。4つのプロセスと、それぞれのプロセス毎に3つのステップがあり、それらがスパイラルアップしていくのだ。このスパイラルアップは四半世紀も前から始まっており、これからも加速度的に拡大していくだろう。そして、スパイラルアップのボトルネックに日本の課題が見えてくる。

 一つ目のプロセスは「デジタル資産の境界消失」だ。そこには、情報ヒエラルキーの消失と、情報の縦割り構造の消失と、情報流通の活発化の3つのステップがある。例えば、病院や薬局や健康サービス機関などがそれぞれに囲い込んでいるパーソナル・ヘルス・レコードの境界線が消えていくことを想像して頂ければ分かり易いだろう。二つ目のプロセスは「デジタル資産の共有化」だ。そこには、繋がりの拡大と、情報管理の再編と、個人情報の統合化の3つのステップがある。分散しているパーソナル・ヘルス・レコードが1つのIDで消費レコードや信用情報など様々な個人情報と繋がっていく、様々な決済がワンストップで出来るようになる、そんなイメージだ。三つ目のプロセスは、「デジタル資産の活用化」だ。そこにはデジタル資産の用途拡大と、用途の個への最適化と、簡便性の高度化の3つのステップがある。このプロセスでB2MEが完成する。最後のプロセスは「アナログ資産の復興化」だ。そこには、アナログ価値の見直しと、アナログ価値の向上と、デジタル価値とアナログ価値の調和の3つのステップがある。DXで成功している中国企業は今、日本の生活文化や芸術や観光資源などのアナログ価値を求めており、デジタル生態系の中に取り込むために投資の触手を伸ばしているという。

 日本と日本の企業がDXで成功するための鍵は一つ目のプロセスにあるのではないだろうか。小さな囲い込みの中でガラパゴス的に蓄積され互換性に乏しいデジタル資産は、囲いの中ではクオリティデータであっても本当の意味でのBig Dataにはなっておらず、囲いを取り払った瞬間にジャンクデータとなってしまうのだ。先ずは、企業や産業や行政機関の壁を越えて、それぞれが囲い込んできたデジタル資産をクオリティデータとして活用できる情報基盤の整備が喫緊の課題だろう。 情報基盤の整備は、日米の関係性を見てもGAFAがつくり上げてきたデジタル生態系との互換性を持たせるべきではないだろうか。精緻に構築されてきたレガシーシステムの上に成り立っている日本のIT環境を考えると、境界無きクオリティデータの基盤整備は簡単ではないが焦る必要はない。急速に進歩するデジタルテクノロジーだが、セキュリティの問題を筆頭にまだまだ課題は山積しており発展途上だ。ウサギとカメの話ではないが、進歩の先行きをしっかりと見極めながらじっくりと取り組めば良い。それこそが日本の得意とするスタイルだ。

一方、国家戦略レベルの取り組みを通してデジタルテクノロジーの進歩に対する日本の影響力を高めていくことも必要ではないだろうか。例えば量子コンピューターの実用化などだ。暗号解読のリスクが懸念される量子コンピューターだが、逆手にとってセキュリティ強化への活用もあり得る。一つ目のプロセスを推し進めていく上でセキュリティの強化は極めて重要な問題になるため、セキュリティ問題の解決に着目した量子コンピューターの実用化研究などにフォーカスするのだ。

一つ目のプロセスで課題を克服していけば、二つ目のプロセスは自然と動き出す。しかし、その際に必要となるのが個人情報に対する理念の確立だ。EUでは2018年5月25日から「GDPR:General Data Protection Regulation(一般データ保護規則)」が施行され、サーバー犯罪の悪質化や、スマートフォンなどの普及による通信ネットワーク上における秘匿情報の増加を背景に、個人情報を集めたり処理したりする企業に対して様々な義務が課せられるようになった。GDPRの下では個々人は「忘れられる権利」を持つことになるが、これが「表現の自由」を抵触するとして物議を醸しておりGAFAの動向にも影響を与えている。日本も、デジタル生態系の規範となるような理念を打ち出すべく英知を結集しなければならない。案外そんなことがブレイクスルーのきっかけになるのかもしれない。

 

方丈の庵

2019年11月 5日 (火)

国破れて(衰退して)山河あり ~急速に山林に飲み込まれていくニッポン~

 近年、野生動物(特にサル、イノシシ、シカ、クマなど)が人家付近まで進出し、食べ物を奪ったり、ゴミ取集場を漁ったり、農作物を食い荒らしたといったニュースを耳にすることが多くなりました。ヒトに危害を加えて大けがをさせ、地元のハンターに駆除されたというものも多々あります。野生のサルは、以前から人間の居住地域や観光地などで見かけることもありましたが、最近ではイノシシやシカも居住地域に出没するようになり、農作物への新たな脅威となっています。イノシシは豚コレラの媒介主とも言われており、人間の食糧生産や養豚事業にも暗い影を落としています。

 2019年は、特にクマの出没という話題が多かったように思います。北海道では札幌市内の住宅街にヒグマが出没し、知床ではヒグマが観光地に頻繁に出没し、現れたヒグマに餌を与える観光客が動画投稿サイトに上がっていました。本州でもツキノワグマの目撃例が後を絶たず、以前よりも人間の居住地に近い場所にまで現れています。

 

 野生動物が身近なところまで出没し始めた原因としては、野生動物の食糧事情により、食料が潤沢で容易に手に入る農地や居住地に進出してきているというのが一般的な見方ですが、最も大きな要因は野生動物の個体数が大幅に増加しているということです。 これは狩猟人口の高齢化、山林を管理する林業の人口が激減していることによる森の放置があげられますが、実は獣の捕獲頭数は右肩上がりで、捕っても駆除しても個体数は減るどころか増えているのが現実なのです。特に強い繁殖力をもつイノシシは、もの凄いペースで増えています。人間が見放した山林では自然が一気に回復(人工的なものが風化)し、爆発的に野生動物が増えて、今や手が付けらない状態なのです。

 

 なぜ、このような状態になったのでしょうか?

 これまでは、人間が長い時間をかけて山林を伐採して住宅地や農地にし、さらに鉄道や道路、堤防やダムなどを建設することで、人間が住みやすいように、便利になるように、自然界を改造してきました。これにより山林の生態系が破壊され、動物が食料を見つけにくく、住みにくく、子孫を残しにくい環境となり、多くの野生動物の個体数が激減しました。一部の種は絶滅か絶滅危惧種となるまで追い込まれました。このように自然を人工的に改造することで、野生動物を山奥に追い込み、人間が彼らの脅威にさらされず、存在を意識することない生活を獲得することにつながっていました。

 しかし、人間の活動の主領域が都市部に移動し、さらに第一次産業(農林業)が衰退したことによって、多くの山林が野生動物に実質的に“返還”されることとなり、破壊した自然が回復しはじめ、野生動物の個体数が増加に転ずることになりました。増えたのは古来からの人間の領域には近づかない警戒心の強い野生動物だけではなく、人間の領域も重要な食料調達場所として認識して、警戒心が比較的希薄な新しいタイプの野生動物達も現れました。自然の厳しい環境の中で、少ない食料を奪い合うよりは、多少のリスクはあっても食料となる農作物や食料ゴミが簡単に手に入る人間の領域を選ぶ個体もあり、特にイノシシやシカはその傾向が強いようです。

 

 人間の都市が野生動物の脅威にさらされていた時代は、都市が拡大し自然を侵食し始めた江戸中期から明治まで遡ることになります。そこは、人間が夜でも安心して暮らせる都市部と、野生に隣接し夜になると野生動物の脅威にさらされる都市を取り巻く郊外エリア、さらに人間が入りこむことが難しい野生動物が主役のエリアに分かれていました。都市部は夜でも安全ですが、それ以外はなんらかの方法で人間の安全を確保する必要があります。

 例えば、富士山や世界遺産に代表される歴史的建造物を中心とした観光地は、都市部から離れ山林に囲まれているので、野生動物の領域を隣り合わせです。これらは、安全に観光できるように、野生動物から観光客を守るための仕組みや人員を配置することになります。そのためには多額のコストがかかるため、維持メンテナンス料金を徴収することになるでしょう。また、キャンプや釣り、登山など鬱蒼とした山に入るという行為は、野生動物との遭遇や襲撃リスクが非常に大きくなります。現在でもクマ出没などの看板も見られます。登山者はクマ除け鈴などを付けて安全に気を使っていますが、滅多に出会うことはないだろうという潜入感が先行しています。しかし、クマの個体数が増えれば、クマ除け鈴だけでは危なくて山には入ることはできなくなるでしょう。避暑地にある高級別荘地もほとんどが山林に囲まれ他エリアにあり、シカやイノシシの被害は深刻だといわれています。

 2019年は台風に猛威にさらされた房総半島もイノシシの被害が深刻な地域で、特にタケノコや山菜などはほとんど食い荒らされている状態です。今回の台風被害で山里近くの宅地を放棄するする人が多くなれば、これらもやがて森に還っていくことになります。

 東京都でも郊外に行けば多摩丘陵の深い森が近い場所も多く過疎化が進行している地域もあり、それらはやがて限界集落になり廃墟と化して、自然に飲み込まれるでしょう。

 自然に飲み込まれた地域は、人が住むには適さない常に野生動物の危険にさらされる環境となり、自己防護手段をもたない服装や装備で踏み込めば、命の危険を覚悟しなくてはならない世界となるのです。

 

 この「日本列島の山林化」ともいえる現象に対する有効な対策として、スマートシティによる共存を考える人は多いのではないでしょうか。スマートシティは、エネルギーの自給や効率的なモビリティが配置されるなど、人間の住みやすさや安心を追求したもので、「進撃の巨人」にでてくるような防壁で囲うことで獣害への対抗策となります。しかし、獣の侵入は食い止めたとしても、「日本列島の山林化」はスマートシティの外で進行するので、マクロ的な観点では効果は限定的で、人間の安全は確保されても十分な食料が供給されないというような事態も考えられます。そういう意味では、今後はスマートシティコンセプトだけでなく、水、飼料、エネルギーを自給でき獣害から農作物や家畜を守る「スマートファームランド」、「スマートランチ(牧場)」なども必要になります。

 

 「日本列島の山林化」を食い止める最も有効な対策は、皮肉なことですが、人間がこれまで行ってきた山林を収める手立てを講じて、自然界における個体数増加機能を人間の管理下に置くこと(つまり人間の活動領域とすることで、自然を人間の都合のよいように改造すること)しかありません。要は人工的な開発を行って自然にダメージ(環境を破壊する)を与えるということです。過去にこれができたのは、急速に人口が増えていたことと、欧米列強に追いつくために急速に近代化、工業化しなくてはならない国家の事情があり、それらが自然を破壊し、野生動物の脅威を抑止していたのです。しかし、今の日本の経済状態、樹木の需要、日本の人口動態や高齢化の進行を考えても、山林を切り拓く必然性がなく、山林の整備に投入するお金や人員は、減少することはあっても増えることはないでしょう。経済発展の行きつく先として、国内の一次産業に頼らない産業構造と都市部を目指す人の流れ、そして人口減少によって、拡げ過ぎた人間の領域を自然界に還すという極めて自然な行為が行われているにすぎないのです。

 

 人間がその叡智による科学力で、野生動物を屈服させて森の奥に追いやり細々と暮らすことを強いてきました。しかし、人間が日本国土を我がものとして謳歌した時代はすこしずつ終わりに近づき、野生の脅威に正面方向き合っていかなくてはならない時代が再び始まりました。これからは、特に山間部では銃器やナイフなどを携行することが当たり前となり、鳥獣保護の法律も大きく見直されることになるでしょう。それでも増えはじめた個体の増殖を止めることは容易なことではなく、やがてかつてあったような壮大な“手つかず”の森が再生されることになります。

 内閣府の人口予測によると、2060年には8674万人になるとされています。人口減少と並行して都市部への人口移動が加速し、不要になる約4000万人分の居住エリアは、限界集落を経て自然に戻ることになります。その頃には、8500万人が住めるだけの居住地と大都市間の往来や事業活動にかかわるインフラが人間のものとなり、残った国土は人間が容易には踏み込めない深い森と、野生動物が支配する領域になるのです。

 

マンデー

 

2019年10月25日 (金)

リユースカップにおける普及の壁

リユースカップをご存知だろうか?文字通り一回使用したカップを捨てずに洗い、何度も使用するカップのことである。“必要ないものはつくらない、もらわない、捨てない“といったリデュース(買い物時のエコバッグの活用など)の考え方と本質的に同じである。まだ社会的な認知度は低いが、利用し始めている企業もある。

導入している企業では、福利厚生の一環として設定している給茶器(ドリンクサーバー)に、使い捨て紙コップに変えてリユースカップを使用している。

実際の利用方法は、紙カップの時とさほど変わらない。唯一の違いは、使用済みカップをゴミ箱に捨てることが、専用回収ボックスに入れるくらいであり、利用者の社員にとって過度な負担を強いる様子はない。

次に、回収ボックスに集められたカップだが、先ず回収ボックスから建物の共有ゴミ置き場に一時的に保管される。そこに回収専門業者がリユースカップの集荷に訪れ、専用工場に持ち込まれる。専用工場内では、リユースカップの滅菌と洗浄を施された後、給茶器設置用にパッキングされ、再びオフィスに届けられていく。基本的にはこの繰り返しによってリユースを実現している。

一方、リユースカップの普及具合をみると、その例はまだまだごく僅かである。先行して導入した企業では、都内近郊4か所のオフィスで利用しているが、2012年の導入以降、他社への広がりはみせていない。企業から廃棄されるゴミの総量を減らし、“必要ないものはつくらない、もらわない、捨てない“といったリデュースの概念に沿った活動であり大企業にとって、SDGs理念にも合致しているのだが、普及を阻む問題が幾つかある。中でも大きな問題になっていると思われる点を3つにまとめてみた。

1)費用の問題

まずリユースカップは紙コップと比較すると価格が高い。リユースカップは、1日100個以上の使用で1個あたり9円~11円の金額で提供(洗浄・運搬費込み)されており、通常の紙コップと比較すると、5倍近い価格である。この価格差では、いくら環境保全に意識を向けている会社でも即導入とはなりにくい。先行して導入した企業が日本で使用するようになった経緯をみると、外資系企業であり、既に海外支社でリユースカップが使用されている実績があり、環境保全を全社的に取り組む姿勢を広く社会に公表している。例えコスト増になったとしても目的が明確なため導入できていると考えられる。いくら社会的意義があったとしても、日本企業においてこの価格差を経営層が納得するには、今暫く時間が必要だと思われる。

また、この問題の根底には、1997年に施行された容器包装リサイクル法が関係している。各メーカーの商品においてリユース品が容器包装として利用が進まない理由は、リユース品の回収、運搬、洗浄の費用をメーカーが負担する必要があるからである。一方で、97年に施行された法律で、資源を再生利用するためのリサイクル活動の費用は、資源を再利用する業者に引き継ぐまでの収集、分別、保管費用にリサイクル全体の7割が、それにあたると言われている。そしてその全額が自治体の税金で賄われている。3R(リデュース/リユース/リサイクル)という概念上、環境保全の最終手段であるとされているリサイクルを選択することが、企業側にとっては価格メリットがあるため、自然とそれを選択するのである。

2)回収の問題

次にリユースカップの専門業者が回収に来るまでのオペレーション面に課題がある。ワークフロアから共有のゴミ置き場に使用済みカップを移動する際、建物のゴミ置き場または別のスペースに一旦保管する必要があり、その場所を確保する事が必要になる。通常、ワークフロアのゴミの収集は、ビルメンテナンス会社が管理しているため、リユースカップを導入する場合、回収専門業者の入退室、置き場所の確保、及びビルメンテナンス会社への保管作業の委託等々、オペレーションに関する協議事項が多く折衝も一様ではない。各建物によって異なるビルメンテナンス会社との取り決めにも対応することが課題である。

3)リユースカップ自体に利用者側からの馴染みが乏しい 

最後に、実際にリユースカップを導入するにあたり、利用者となる企業にとって社会的認知がないリユースカップを積極的に導入する動機が働きにくい上、導入への心理的・物理的負担感が先に立ってしまうことも相まって、検討の俎上に乗りにくい。社会的認知度と共に、その意義の理解が今後の課題となる。

 以上のことから、日本企業のオフィス内にリユースカップを普及させて行くには、まだまだ時間がかかると考えられる。

一方、リユースの普及に関して世界に目を向けてみると、リユース品使用の先進国と言われているスウェーデンやドイツでは飲料を販売する際に、ペットボトルやビンに対してデポジットを徴収している。例えば、ペットボトル飲料を近所のスーパーで購入した場合は、空のペットボトル容器を購入店へ返却、また飲食店でテイクアウト用の飲料を購入した場合は、最寄りの系列店に容器を返却すれば、デポジットが戻ってくる仕組みを取っている。そして、リユース品にかかる費用のメーカー負担に関しては、リユース品を製造した段階のみに税金をかけ、それ以降商品販売にリユース容器を使用していれば、何度売れても税金がかからない仕組みとしている。これらの取り組みによって普及に力を注いでいる事例もある。

日本においては、これまで述べてきた、乗り越えなければならない壁がある。参考にしたいのは、1990年代の深刻な環境汚染とゴミ集積地の不足といった理由により国や行政を巻き込んで、ゴミを細かく分別するという活動が徐々に日本で浸透し始めたことだ。時間はかかったが、国内においてゴミ分別はどの地域でも当たり前のことになった。あらゆる手段を講じ、分別の啓蒙とリサイクル活動が一般生活者の意識に根付いたためだ。

リユース品の普及は引き続き低調ではあるが、地球温暖化をはじめとした環境悪化の問題は待ってくれない。日本だけでなく世界各国と手を取り合って最適な解を導き出していく必要がある。日本でも個人の小さな活動がやがて大きなムーブメントとなり、“リサイクル”に軸足を置いている社会から、“リユース”が当たり前となる社会を希望し、まずは自分のできることを進めていきたい。

Joker

2019年10月23日 (水)

人は変わることができるのか

  先日、前職(新規事業開発の支援会社)で一緒に働いていた同僚と数か月ぶりに会った。会話するうちに筆者は、同僚が見違えるように変わったと感じた。同僚は、自身の考えを伝えきれず周囲の雰囲気に流されてしまうところがあった。また、顧客と会話する時には頭が真っ白になってしまい、何を発言すればよいのか分からなくなり、“自分は顧客に価値を提供できないため対価をもらう 資格のない人間だ”と自虐的になるなど、自信がないようにも見えていた。しかし、会わない間に同僚は、おかしいと思ったことをおかしいとはっきり口にするなど自分の気持ちを明確に表現するようになり、言動には自信がみなぎっていた。

 同僚に聞いてみると、「顧客への提供価値は会議で気の利いたことを発言することだけではない。自分は、対価を得ることを難しく考え過ぎていたため、自身のやり方でお金を稼げるようになることを目指した。そして、個人事業主として成功している人に共通する要素を自分なりに見つけて、その要素を取り入れるようにした。」と言っていた。

 また、「同じような悩みを持ちながらも自分らしく生きようともがいている人と意識的に付き合うようにした。自分はコミュニケーションが苦手なダメな人間だと自己否定の感情を持たないためにも、あえて前向きな言葉を使うようにしている。」と言っていた。

 他にも、「“楽しくない・やりたくない”と思うことはしないようにした。相手のペースに合わせた対人折衝を求められる仕事は不得手であるため、脱サラし元々副業していた転売やアフィリエイトなどほとんど自己完結できる仕事にシフトし、個人事業主として独立した。」と言っていた。

 筆者は、人は短期間でこうも変わることができるのかと驚いた。人には、内部や外部の環境変化に関わらず生体の状態が一定に保たれるホメオスタシス(恒常性)と呼ばれる性質があると聞くが、元来人が変わることは難しいと考えていた。同僚が変わることができた理由を改めて同僚との会話や調べたことを参考に考察してみたい。

 同僚との会話を整理すると、同僚は自身を変えるために、①なりたい姿をイメージし、②付き合う人を変え、③言動を変え、④苦手なことを捨てた、ということだろう。

 まず、4つに関わる内容について調べてみると、“レファレント・パーソン論”という考え方に行き着いた。いわゆる自己肯定感を高めるための手法で、偉人の生き方、価値観、思考法、行動を参考に、自身の課題を見つめ直し人生の判断や選択をするというものだ。同僚が、個人事業主として成功している人に共通する要素を参考に自身のやり方でお金を稼ぐこと目指し、同じような悩みを抱えながらももがいている人と付き合うようにしたことや自己否定の感情をなくすためにあえて前向きな言葉を使うようにしたこともこの考え方に当てはまると思った。

 次に見つかったものは、“人は3日で変われる”というアドラーの言葉であった。近年、“嫌われる勇気”などアドラー心理学に関連する書籍をよく見かけるが、アドラーの主張は、“人は、変われないのではなく、変わらないという決心を下しているに過ぎない。変わる勇気があれば人は変わることができる。”ということに集約される。その思想から“勇気の心理学”とも呼ばれている。同僚が、“楽しくない・やりたくない”と思うことをしないと決め、不得手な対人折衝を伴う仕事をやめたことは、苦手なことを捨てる勇気を持つというアドラーの考え方に類似していると思った。

 このようなことを調べるうちに筆者は、同僚が自身を変えるために実施した①~④は、ビジョンの策定、アライアンス先やターゲットの変更、コーポレートメッセージの変更、リストラクチャリングなど企業の変革戦略に通じているということに気が付いた。

 通常、企業は自社を変革して持続的に成長するために戦略を策定する。筆者が考える戦略は、なりたい姿を明確に描き現状とのギャップを埋めること、つまりAs-IsとTo-beを明確にすることから始まる。同僚は、個人事業主を目指してなりたい姿を描き、個人事業主で成功している人の共通要素を洗い出すことで、なりたい姿と現状とのギャップを埋めようとしていた。

 また、企業が新たなビジネスモデルに変革する際に、アライアンス先や獲得する顧客層を変更するように、同僚は同じ悩みを持つ仲間と集まるなど付き合う人を変えていた。

 他にも、企業が新たなビジョンの実現に向けて社員の行動を変える際に、コーポレートメッセージを変えるように、同僚は思考や行動がより前向きなものになるように自身の発する言葉を意図的に変えて(コントロールして)いた。

 そして、企業が自社の弱みを捨てて、自社のリソースは全て強みを伸ばすことに集中させる“選択と集中”を行うなどリストラクチャリングを敢行するように、同僚は転職、副業、兼業、自営業、アルバイト、フリーターなど様々な選択肢がある中で、自身の経験を活かした転売やアフィリエイトで稼ぐ個人事業主になるなど“選択と集中”を行っていた。

 不思議なことに、上記4つを実践している企業は多くあるにも関わらず、イノベーションが起きづらい昨今の企業状態を踏まえると、変革成長を遂げている企業は少ないように思う。そこで筆者は、同僚の以下のような発言を思い出した。

 「個人事業主で生計を立てられるようになったノウハウを自分で稼ぎたいと思っている人に伝えている。転売やアフィリエイトなどのスモールビジネスは、世間ではあまりいいイメージを持たれていないが、ノウハウを共有することで関わった人を幸せにできる仕事であると思う。その中で、自分と同じように自己否定の感情で苦しむ人がいたら、自信を持って生きていけるようになるためのサポートをしたい。」

 つまり同僚は、個人事業主としての成功を目指しながら、苦しんでいる人を助けたいといった“誰かのために役に立つ”という思いを強く持っていた。そして、経験やノウハウを共有するなど、人を幸せにするという自身の思いを体現するための行動を実際に移していたのだ。

 企業の役割が、社会課題の解決や人々の生活を豊かにするという理念をビジネスという手段で体現することであるならば、“誰かのために役に立つ”という精神を持った人材を一人でも多く育成し、その価値観を企業全体に浸透させていくことこそが、企業の変革に必要な要素となるのではないか。

 今回の考察では、企業や個人が短期間で変わるためには、“誰かのために役に立つ”という精神を持ち、変革戦略である①~④のプロセスを踏むことが重要であるいう結論に至った。同僚のエピソードが、変わりたい、前を向きたいと思っている方に少しでも参考になれば幸いである。 

                                                                               R2D2

2019年10月21日 (月)

OMO時代にある駅

 先日、日本本土に超大型台風が襲来し、大きな被害をもたらした。

 被災された皆さんへは心よりお見舞い申し上げるとともに、被害に合われた地区の皆さんには今後の生活の安寧と一日も早い復興をこの場を借りてお祈りさせてもらいたい。

 私の住む地域は東京の西側にあり、例外なく超大型台風の直撃を受けたが、事前情報による準備と比較的高台に位置していたこともあり、幸いにも無事であった。だが、もう一つ前の台風のときは、交通機関が完全にストップし、朝の通勤ラッシュ時というのもあり駅が人であふれかえっていた。その日の出社を見合わせる方も大勢出たことだろうと容易に推察できる。

 

 さて、本稿はそのような交通機関が災害でストップし、駅前が人であふれかえる光景を目の当たりにしたときに巡らせた妄想についてここに書き留めるものである。

 

 本題に入る前に、タイトルに掲げたOMOの考え方について、簡便に紹介したい。OMOとは、Online Merges with Offlineの略で、この言葉自体は、グーグルチャイナの元CEO李開復氏が2017年9月ごろ提唱し始めた。参考までに、彼の著書の中での記述を以下に引用する。

 

 「ソファに座って口頭でフードデリバリーを注文することや、家の冷蔵庫にあるミルクが足りないことを察知してショッピングカートへの追加をサジェストすることは、もはやオンラインでもオフラインでもない。この融合された環境をOMOといい、ピュアなECからO2Oに変わった世界をさらに進化させた次のステップである」

 

 メーカーや小売りなどで一時代前に声高に語られていたO2O(Online to Offline)の世界観は、“オンラインをどう活用するか”というリアル起点でデジタルを発想する考え方であり、企業目線で語られる内容であった。しかし、OMOの世界観は、デジタルが急速に進化を遂げる時代を受け、“データを軸にリアルをどう便利にするか”というデジタル起点でのリアル活用の視点に進化を遂げ、それは常に顧客目線で最適解を求める思考が当たり前になる世界に変貌を遂げることを意味する。

 具体的にわかりやすい例を挙げるならば、皆さんは知らない土地に何か用事があって出向く際、まずスマホでマップを表示し、目的地までのルートを探してから、目の前に広がる道路や標識を捉え、歩を進める方が多いのではないだろうか。スマホがなかった時代は、道の標識を探したり街並みの雰囲気などを見たりして、歩むべき方向を選び歩を進めていたかもしれないが、そこからは大きく変わった。食事する店を探すときも、看板の雰囲気や外観、漂う香りなどで決めることよりも、まず食べログなどからお店の情報や位置を取得して決めることが多くなってきているだろう。それこそデジタルが当たり前、デジタルのほうがリアルよりも先に利用している世界になる。それの延長線上にOMOの世界がある。

 中国のフ―マーマーケットや平安保険グループなどOMOの世界における先進企業として名前があげられるが(詳細は、文末記載の参考書籍をご覧いただきたい)、それらの企業に共通しているのは顧客の行動データをオンライン/オフライン両面から数多く取得し、それらを基に顧客目線で最適な価値を提供している点である。つまり、顧客データの量・質とその活用が肝となっている。

 

 さて、冒頭の話に戻るが、私は交通機関のストップによって駅前に人があふれている光景を目にしたときに、このOMOの世界が頭の片隅にあったこともあり、なんて数多くのデータがそこに密集しているのかと感嘆した。きっとデータサイエンティストを本業にしている人が見たら、駅というのはそのようなデータ集約拠点として機能していると見て取るのではないだろうかと。駅の再開発といえば、JRや私鉄各社の動向をみても、基本的には沿線価値の向上であり、駅そのものをどうこうするというよりも、駅周辺の施設開発などを推し進めていることが多い。だが、もしOMOの世界観から駅の再開発を考えるとすると、大きなパラダイムシフトが起きるのではないだろうか。

 駅における顧客行動データというと、現状は、おそらく交通系ICカードによるデータ取得とその活用がメインになっていると思われる。しかしながら、駅周辺に様々なIoTセンサーが設置され、それ以外の行動データが交通機関と連携されて活用できるようになると、例えば次のような世界が訪れるかもしれない。

 

1)交通機関における広告最適化とAR/VR活用によるサービス体験の実現

 今の車内ビジョンでながれる動画広告や車内に吊るされている広告は、マスに訴えかける内容である。だが、それだけではなく、興味をもった(更なる妄想としては、興味をもったというような感情面の機微もセンサーで検知し、自動検出されるようになると面白いが)個々の乗客は、自身のスマホに特定の広告内容に紐づくキャンペーンチケットのようなものをダウンロードすることができ、乗降した駅構内でそのチケットを使うことで、その商品が置かれていなくてもAR/VRを活用して商品やサービスを疑似体験できる(広告の追加コンテンツを楽しむことができる)ようになるかもしれない。そして、それは企業側にとっても興味を持った潜在顧客データが届けられることとなり、さらなる商品・サービス開発に活かされるようなスキームができあがる。そうなると駅がデータプラットフォームとして様々な企業が活用をはじめる対象チャネルとなる。

 

2)心身の健康状態に合わせた最適な交通手段の提案と交通機関内でのサービス提供

 定期購入時にデータ提供に同意した顧客に対しては、ウェアラブル端末などに紐づいた心身の健康状態のモニタリングデータを基に、毎日の通勤・通学がより快適になるようなルートやそれに紐づくサービスの提供が実現できるかもしれない。(例えば、ストレス度がピークに達していれば、比較的空いている乗車時間・乗車車両への誘導が乗車時間までの近隣にある喫茶店やマッサージ店のクーポン券と合わせてスマホに通知が届くなど)

 

3)行動データに基づくダイナミックプライシング

 飛行機などではすでになされているが、電車でも同じように駅利用者の混雑状況に合わせて最適化された価格設定を実現し、混雑緩和、通勤ラッシュ解消などにつなげることも想像できる。(国策と紐づく企業の取組としてはハードルがあるかもしれないが)

 

 ちょっとした妄想の域をでない話の数々であるが、駅に限らず商業施設や高速道路のPA/SAなど、リアルにある様々な施設・拠点をOMOの世界観から眺めてみると、皆さんの生活価値を大きく変革向上させる取り組みがみえてくるのではないだろうか。まさに、デジタルが席巻し始めた今の時代に生きる一人の人間として、そのような視点で、様々な企業の次の戦略・アクションを注視していきたい。

 

参考書籍:「アフターデジタル」 著―藤井保文・尾原和啓

ハッピーホーム

2019年9月25日 (水)

フェイクニュース拡散を抑えるために

SNS(交流サイト)などで虚偽の情報である「フェイク(偽)ニュース」が流れる事例が増えている。偽ニュースは一般に、社会を混乱させたり、利益誘導をしたりするために発信された虚偽の情報のことだ。7月21日投開票の参議院選挙にからんでも、ツイッター上で複数が確認された。例えば参院選の開票日前には「来月から国会議員の月給が100万円から120万円に引き上げられる」「安倍首相が『富裕層の税金を上げるなんてバカげた政策』と答弁」といったテキストや動画がSNSのツイッター上に投稿された。後にメディアによって偽ニュースと判断されたが、投稿を信じた人による「不公平だ」などのコメントが殺到。安倍首相の動画は700万回以上再生された。

フェイクニュースを作る技術は日々進化している。人工知能(AI)による画像処理を使い、映像の中の人物を他の人物と入れ替える技術「ディープフェイク」や、映像内の人物の表情を自在に変えられる技術「Face 2 Face」が登場。実物そっくりのフェイクを誰でも簡単に作れるようになった。

またフェイクニュースの方が事実より拡散スピードが速く、拡散範囲が広いという研究結果が2018年にサイエンス誌に掲載された。論文では10万件以上のツイートを分析し、その結果真実が1500人にリーチするにはフェイクニュースよりも約6倍の時間がかかることやフェイクニュースの方が70%も高い確率で拡散されやすいことが明らかになっている。

ソーシャルメディア上で偽情報があまりに容易に広がるという事実は単にやっかいだで済む話ではない。虚偽のニュースは我々の選挙と民主主義の根幹を脅かす可能性がある。なぜこれほどまでにフェイクニュースが存在するのか、そしてどうすれば抑止できるのであろうか。

 

フェイクニュースがつくられる理由は政敵に勝つため、主張を強固なものにするためという意図もあるだろうが、大きな理由の1つは金銭的理由である。例えば米大統領選挙では東欧の小国であるマケドニア共和国に住む学生たちが大量のフェイクニュースを作成、100以上の米国の政治情報サイトが運営されていたことが分かっている。彼らは政治的立場からトランプ氏を勝たせたかったわけではなく、その狙いは記事の作成・拡散による多額の広告収入にあった。彼らは米国の右翼サイトなどから寄せ集めした情報を公開し、拡散を図った。特に右翼的なテーマほど拡散されやすいことからトランプ氏を擁護するようなフェイクニュースが大半を占め、数か月で親の生涯年収分をかせいだ者もいる。

ソーシャルメディアにおける収益モデルはコンテンツの拡散度合いに依存する。現在のデジタル広告のビジネスモデルは虚偽ニュース拡散を促す側面もあるといえる。なぜなら偽情報は正確な事実報道より早く、より広く拡散するからである。

フェイスブックの創始者にしてCEOのマーク・ザッカーバーグが公聴会で何度も誓ったように、プラットフォーム企業にはクリックベイト(ユーザーの興味を引きクリックさせるために、実際の内容と異なる扇情的なタイトルをつけること)を減らし、より有意義で信頼性の高いネットワークを作る責任がある。プラットフォーム企業にとって広告料が生命線ならば広告主の大企業が影響力を行使すれば流れは変わる。フェイクニュースと共に表示される企業広告は企業イメージを毀損するため、ソーシャルメディアがより社会的責任のある運営をするようになるまで、大企業は広告を出さないような見直しをすべきだ。

また企業任せだけでもいけない。フェイクニュースの明確な定義が難しく、プラットフォーム企業のファクトチェックがまだ効果的に働かない今、拡散媒体となっている消費者の我々も知恵をつけ、見る目を養い、情報を鵜呑みにせず、嘘を見破るための自衛のスキルを身につけなければならない。

具体的には情報の質、真偽、偏りをより意識することが重要となる。無論すべての情報について、真実かどうかをチェックするのは不可能であるが、受信する情報について、偏っているかもしれない、自分の見たいものだけ見ているかもしれない、デマかもしれないと考えて接することはできる。完全に防ぐことはできないが、これらを認知したうえで情報に接するのと認知しないで接するのではその意味合いは大きく異なる。

情報社会になって情報が氾濫し、共有方になったことにより、あらゆる情報を無料かつ無制限に享受できるのが当たり前になりつつある。しかし、そのような時代だからこそ我々は情報の質についてよりいっそう深く考える必要があるだろう。

エウロパ

2019年8月16日 (金)

DXとDAO

つい昨日までDX(デジタルトランスフォーメーション)の話題で、多くのビジネスパーソンがその知識習得にやっきになっていた。しかし、そのイメージは未だ伝わってこない。

例えば、こんなイメージならどうだろう。家電メーカーは家電をつくるが家電そのものを売るのはやめる。その代わり、使った状況に応じて利用料を支払うことに。具体的にはこんな事が考えられる。

1台10万円の冷蔵庫を量販店で買う場合、買い方は現金かクレジットカード(分割可)やローンがある。分割払いや、割賦払いを利用すれば金利もつくので、10万円以上の支払いをしなければならない。
一方、マイクロペイメントのような課金プログラムが実装されたなら、冷蔵庫を無償で提供し、冷蔵庫と冷凍庫のドアの開閉回数に応じた課金が可能になる。
仮に、冷蔵庫のドアを開ける回数1回につき0.8円。冷凍庫は1回8円と決めておく。都心で働く1人暮らしの20代女性の冷蔵庫ドア開閉を、1日平均10回、冷凍庫ドア開閉1日平均5回とすると、1日当たりの利用料平均は48円となり、365日を乗じると、年/17500円となり、5年使えばで87,500円となる。2人暮らし世帯になれば、開閉回数も増えることが期待できる。
考え方にもよるが、家電メーカーは売らなくても収益化は可能になる。
これを支える技術は、ブロックチェーンのマイクロペイメントシステムではないかと言われている。事実、ブロックチェーン技術は既にアメリカの不動産業界において、スマートコントラクトといった契約方法で実現している。不動産は権利は複雑で高額の取引となる、ブロックチェーン技術によって購入と同時に登記の登録まで一貫して行ったという実績もでてきた。

更に技術に支えられた組織のあり方も変わっていく。自律分散型組織=DAO(Decentralized Autonomous Organization)。例えば、会社経営には管理者と労働者がいるのが当たり前だと思っているが、そこが変わる。管理者はいるが、労働者がいない組織。これは大手自動車製造業の工場など、人は殆どいないし、高速道路の料金所も人がいなくなった。こここまでは自律型とは言わない。DAOの世界のポイントは、管理者が不在という点がポイントだ。例えば、タイムスの駐車場においてある車にUberボタンが実装されていることを想像してもらいたい。誰でもいつでも好きな時間に車を借り、少し時間があれば、好きなだけUberのドライバーとして働くことができる世界が実現すれば、管理者はネットワークシステム、労働者は免許証をもったカーシェアリングを利用する全てのドライバーとなる。(日本国内ではUber Eatsの労働者が都内のレンタルサイクルを使っているケースが既にある)要は登録さえすれば、管理者不在でネットワークシステムが労働者に仕事を提供する世界だ。
更に、無人の自動運転が実現すれば、労働者も管理者もいない移動手段が可能になる。このような組織が実現するには今暫くの時間を要するだろうが、DAOはこれから着実に増えていくと考えられている。自律型分散組織は、そのビジネスモデルを提供するオーナーはいるが、人と組織を管理する必要性がほぼなくなってくることを意味する。そういった組織が現れる時代になった。

日本は過去の仕組みや慣習から抜け出すのに時間がかかりすぎた。そのことを省みて、中国に学び、リバースイノベーションを模索する流通企業もある。その方が経営のデジタル化を早く手に入れられるからだ。DXの周回遅れとなった日本企業の感覚では、日本でDXを進めていてはさらなる周回遅れに見舞われる。
日本でDXを進めるのであれば、まず考え方を変えなかればならない。私達の生活行動の全てをデジタル化すること。それが大前提。その上で、これらのデータはマーケティングに活かし、かつ最高の顧客経験価値へとつないでいく発想への転換が不可欠になる。
先に述べたように、家電も買わなくてよくなるのであれば、壊れるまで使って購入するよりも、5年ごとに新型家電に変えることが経験価値を高めることになる。そして、家電を利用した顧客のデータは全て収集すし、これらのデータを更に新しい経験価値づくりに活用するサイクルを生みだすシステムが、DXの世界であり、DAOの世界である。

日本の社会を変えていく上で、重要な企業経営の課題の1つは、経営のDX化と組織のDAO化だ。創業から10年以上を経過した企業は、この2点を与件とした経営改革を進めるべきだろう。ここでは、紹介しないが、何故、そうなのかを考える材料を1つ提供しておきたい。それは、全く新しい大学(プログラミング大学)のあり方を創った42USAについて調べてもらいたい。授業料無料、寮費無料、就職先はGAFAをはじめ世界トップレベルの企業から在学中にスカウトが来る。授業に教師はいない、課題は自分か生徒間で教え合う。まさにDAOの世界観そのものでもあり、学校が授業料をとらず無料で有能な人材を集めて利用してもらっているのだ。一度自分の目で確かめてもらい、将来の経営の参考にすることをすすめたい。
https://www.42.us.org/

クローサ No.10

成長を続けるTKPの行く末

貸会議室大手ティーケーピー(以下、TKPと表記)の勢いが止まらない。

TKPは、空きビルを借り上げ、貸会議室に改装して企業などに時間単位で貸し出す事業を担ってきたが、近年、室料以外の収益源を確保するビジネスを上手く展開し、機材レンタル、飲料・宴会サービスをオプションで提供して客単価アップを図る一方で、弁当会社の買収などでサービスを内製化し、利益率を高めてきており(※1)、2017年に東証マザーズに上場している。
直近においても、07/01にホテルなどに配膳係となる人材を派遣する「品川配ぜん人紹介所」(東京・港)を買収し、一流ホテルを顧客に持つ同社を取り込むことで、貸会議室へのケータリングサービス強化や人材育成拡充につなげようとしている他、06/21には、サッカーJ1の「大分トリニータ」を運営する大分フットボールクラブ(FC、大分市)と資本提携し、自社の拠点で大分トリニータの試合のパブリックビューイングを開催するなどエンタメ分野での展開も検討を進めている。また、昨今のインバウンド増加に伴う宿泊施設の不足の波になり、出張で東京に来たビジネスパーソンを対象とした宿泊分野の伸びも期待されている。

 

2020年2月期第1四半期 概況(連結) (単位:百万円、構成比%) ※()内は2019.2月期第1四半期

連結売上高 10,405(9,118)
室料            5,430(4,894)     52.2%(53.7%)
オプション  1,005(840)         9.7%(9.2%)
飲料            1,937(1,732)     18.6%(19.0%)
宿泊            1,257(834)        12.1%(9.2%)
その他           773(815)           7.4%(8.9%)
営業利益   2,087(1,765)    20.1%(19.4%)

そして、同社は今年の4月に「リージャス」などのブランドでシェアオフィスを世界展開するIWG(スイス)から日本法人「日本リージャスホールディングス」を約450億円で買収し、シェアオフィス事業に参入している。そして、08/09には、台湾最大手のシェアオフィス企業の台湾リージャス(シェアオフィス14拠点を展開する)を約30億円で買収したことを発表した。そして、同社が6月に買収を踏まえた新中期経営計画の中でも、フレキシブルオフィス(※以下ご参照)提供者になることを明言している(16日に中期経営計画の見直しを公表するとしている)。

 

新中期経営計画の基本方針(※2)

当社は以下を新中期経営計画の基本方針といたします。
①当社と日本リージャス社とのリソース融合による、共同での物件開発・商品販売・拠点運営の推進
②日本最大のフレキシブルオフィス提供者として「働き方改革」を推進し、BtoBを中心とするサービス展開の拡大及び顧客満足度・リピート率の向上
③フレキシブルオフィスと関連する新規事業分野の開発・M&Aの促進

 

※フレキシブルオフィス
サービスオフィス(レンタルオフィス)とコワーキングオフィス(シェアオフィス)の合計。一般的なオフィスの賃貸借契約ではなく、より使用者の目的に対応したワークスペースを利用することができる新しいオフィス。

 

シェアオフィスは、主にオフィスの床を長期で借り上げて転貸するビジネスモデルである。近年は、企業の「働き方改革」やスタートアップの活況などを背景に需要が伸びており、不動産サービスのJLLによると、東京都心5区のシェアオフィスは13年以降に目立って増加しており、18年末には床面積が15万6000平方メートルと前年比48%増え、19年もさらに拡大する見通しである。首都圏のフレキシブルオフィス市場規模を見ても、日本オフィス市場規模:20兆円に対して、19年は2,000億円(1%)であるが、30年には6兆円(30%)にまで拡大すると予測されている(※2)。最近でも、三井不動産や三菱地所などの不動産大手の他、西武グループも参入を表明し、競争環境は厳しくなってきている。また、そこに賃料の上昇も伴い、シェアオフィス事業の一般的な利益率は決して高くはないのが現状である。先述したIWGの18年12月期の連結営業利益率は6%であり、18年に日本へ進出し、ソフトバンクグループが出資する米We workは事業拡大に伴う投資が先行し、赤字が常態化している(※3)。

 

前述の通り、TKPは従来事業が堅調な成長を続ける一方で、19年2月末時点の自己資本が106億円の同社にとって、「リージャス」の買収が財務に与える影響は大きい(負債合計 前四半期比+102.3%)。そのため、拡大を続けるシェアオフィス市場のシェアをどれだけ獲得していけるかが、経営上の大きな課題になることは間違いない。そして、大きく以下4つの理由により、重要なイシューは、「デジタル化支援を含む中小企業向けサービスのカバー」だと、私は考える(※4)。

➀現在のシェアオフィス利用者層は、従来のITやコンサル系企業の経営者、フリーランスやスタートアップ社員から、日立やNTTドコモ、味の素や資生堂など日本を代表する大企業の社員に移り始めているが、中小企業の社員による利用が進んでいないこと。(※5)

②日本の大企業と中小企業の企業数と従業員数を比較した時に、大企業は11,000社/1,433万人、中小企業は380万9,000社/3,361万人であり、市場として中小企業のパイが大きいこと。

➂世界各地に拠点を持ち、シェアオフィス市場を牽引するWe workは大企業向け社員向けにサービスを展開しており、中小企業向けサービスを主力事業として展開し、知見を持っている競合企業が存在しないこと。

④国や企業の「働き方改革」推進の下、中小企業においてもシェアオフィス利用の需要が増えると見込まれる一方で、中小企業は業務のデジタル化(この場では、紙などの現物を用いずPCやタブレットだけで業務ができる状態を指すこととする)が進んでいないことがボトルネックとなり、シェアオフィスを利用しようにも業務にならないため利用が進まないと考えられること。

特に、この➃に関しては、対面などのアナログ的なコミュニケーションからメールやTV会議などを駆使したデジタル的なコミュニケーションへと変えていくにあたり、心理的な抵抗(ex.対面でないとコミュニケーションはできない)や金銭的な負担が生じることが予想されるため、いかに、デジタル化を支援していくかがポイントになると考えられる。

成長市場とみなされていたシェアオフィス市場は、既に群雄割拠の様相を呈してきているが、順調に成長を続けるTKPが次にどのような一手を繰り出すのか、注視して見守りたい。

 

 

<脚注>

※1:TKP 「2020年2月期 第1四半期 決算説明資料」より抜粋
※2:TKP IRニュース「新中期経営計画の策定に関するお知らせ」より抜粋
※3:米調査会社CBインサイツの調査結果による
       直近のウィーカンパニーの企業価値は470億ドル(約5兆円)
       19年1~6月期の売上高      :15億3542万ドル(前年同期比約2倍)
                            最終損益   :6億8967万ドルの赤字
       18年1~12月期の売上高    :18億2175万ドル
                            最終損益   :16億1079万ドルの赤字
※4:シェアオフィスを推進する上では、利用企業において「多様な働き方を実現するための人事制度の構築」も必要にはなるが、TKPが決算説明資料で明示している「市場の周辺サービスの拡大」には当たらないと判断したため、今回の論点からは外している。
※5:公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告書 No.15 2017年2月より

ノラ猫